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【2026/08/06 08:41 】 |
緋勇龍葉の友人は
傾向:ほのぼの
※如×女主前提の、壬生との友情話。


「う〜ん…何しようかなぁ…」

ある冬の日の放課後、龍葉はあてもなく一人新宿の街を歩いていた。いつも肩を並べる真神の親友達は今日はいない。葵は後任への生徒会の引き継ぎ。小牧と醍醐は後輩に請われて部活に顔を出しに行ったのだ。そして京一は皆がそんな感じだから、今日は自由にさせて貰うと早々に帰ってしまった。そうして龍葉は一人になってしまったのだが、このまま帰ってもつまらないからこうして街を散策する事にしたのだ。
龍葉はビルの合間の重い灰色の空を見上げて一つ息を吸う。湿気はないのに微かに水の匂いがするのは、この空がもうすぐ雪を降らすからだろうか。

「冬だなぁ…」

こんな生活だからいつ何があるか分からないから、一人では余り行動するなと言われているが、一人でないと気付かない事もある。
例えばこの空。普段仲間といると楽しくて、上を見る余裕もなく今を生きるので精一杯になって目の前の風景にばかり目が行ってしまう。けれどある時一人になってふと空を見上げると、もう雪が降る季節なんだと気が付いて、今年のクリスマスはどうしよう、初詣は誰と過ごすのだろう、と思いを巡らせてワクワク出来る。他にも知らない路地を見つける嬉しさや、足元のタイルを跨いで歩く楽しさ。どれも些細な物だけれど、それは戦いで傷ついた心を癒す薬になる。一人なら上を見るのも下を見るのも、前や後ろを見るのも全て自由だ。
そんな事を思いながら龍葉が楽しそうに人混みに紛れ、足元のタイルに合わせて小さくステップを踏んでいると、いきなり黒い何かにぶつかった。

「あっ…」

ぶつかったのはどうやら人で、そのままよろめく龍葉の身体をふわりと支えてくれた。

「ご…ごめんなさぁい」
「……龍葉?」
「えぅ…?」

龍葉もぶつかられた方も、お互い聞き覚えのある声に顔を見合わせた。

「あ〜!紅葉くん」
「やっぱり龍葉か…。大丈夫かい?ちゃんと前を見て歩かないと危ないよ」

龍葉がぶつかった相手は仲間の一人壬生紅葉だった。龍葉は嬉しい偶然に声を弾ませる。

「わ〜久しぶりぃ!元気だったぁ?」
「…人の話を聞いてるかい?そもそもついこの間も会ったばかりだろう?」
「え〜でも紅葉くんには毎日でも会いたいよぉ」
「そう言って貰えるのは嬉しいけどね、余り簡単にそういう事は言わない方がいいと思うよ」

龍葉のはしゃぎように苦笑しながら壬生はぽんぽんと頭を叩く。それに龍葉はくすぐったそうに笑うと、くるりと身を翻して壬生の腕に自身の腕を絡めた。

「でも紅葉くんが新宿にいるなんて珍しいねぇ。これからどこか行くのぉ?」
「いいや、用も済んだし帰ろうと思っていたんだ」
「本当〜?じゃあ一緒にお茶しようよぉ。今一人で何しようか考えてたんだぁ」
「一人?そういえば他の人達が見えないな」
「みんな用事があってぇ…」

そうなのか、と壬生はやや思案すると一つ頷いて歩き出す。

「いいよ、行こう」
「やったぁ〜」

微かな笑みを得て龍葉は一層腕にしがみつくと、ぐいぐいと壬生を手近なカフェへ引っ張って行った。

「…それにしても一人の放課後なんて、龍葉なら如月さんの所に行きそうなものなのに、珍しいね」

目に付いた学生で賑わうカフェに入り、歩道に面したテラスで椅子に腰を下ろしながらふと壬生が疑問を投げると、龍葉は少し残念そうに笑う。

「うん〜…本当は翡翠くんの所に行こうと思ったんだけどぉ、確かこの間今日はどこかに行くって言ってたからぁ…」
「そうなんだ。そんなに皆見事にいないとなると、それは寂しいよね」
「でもでもぉ、一人も結構楽しめるんだよ〜?それにそのお陰で紅葉くんとこうしてゆっくりお話出来るんだからぁ、プラマイ0だよ〜」
「それは良かったよ」
「エヘヘぇ」

壬生は仕事柄か、普段クールで感情を表に出す事はない。だが龍葉にはいつも優しげな微笑を向けてくれて、何でも話を聞いてくれるから龍葉はよく慕っている。それに実は二人は仲間内ではお互い誰よりも早く出会っていて、仲間になる以前から知り合いだった。龍葉が真神学園に転入する以前、鳴瀧冬吾の下で古武術を習っていた頃からの。それまでは会えば喋るくらいの関係だったが、壬生は《暗殺者》、龍葉は《人ならざる力》を持った《魔人》だった事を、八剣右近の件でお互いが知り驚きはしたものの、その事件を通じて仲間になってからは同じ《力》を持つ者同士、元々兄弟弟子であった事もあり一気に親しくなった。
最もそう思っているのは一方的に距離を詰めた龍葉だけかもしれず、寡黙な壬生はどういう気持ちで接してくれているのかは判らないが。

「それで、如月さんとは最近どうなんだい?」
「相変わらずだよ〜。この間一緒に作ってくれたパペット人形いらないって言われるしぃ…」
「あぁ…あれは…まぁ…如月さんならそうかもね…」
「え〜!紅葉くんまで何で〜!?」
「だってあの蛇は…」
「え…それでなのぉ?」
「いや、分からないけどね…」
「あ、でもねぇ…エヘヘヘぇ」
「…?どうしたんだい?」
「その後ちょっと良い事があったんだぁ」
「へぇ、何?」
「あのねぇ…」

龍葉は温かいココアを両手にくすくすと笑いながら如月との事を報告し始める。
壬生は本当に何でも話を聞いてくれるから気安い。悩み事から日々の雑事と何でも。特に話題に多いの如月の事だが、男には辛いだろう女の恋愛話でも嫌な顔一つせずに聞いてくれるのだ。壬生は本当にとても優しい。

「でねぇ、その後……」

そう思う反面、龍葉はふとある不公平に気付く。

「…龍葉?」

嬉しそうに如月の話をしていたかと思うと、急に黙る龍葉に壬生が訝しんで首を傾げると、龍葉は神妙な面持ちで口を開いた。

「ねぇ…紅葉くん…」
「ん?」
「わたしってぇ…いつも話してばっかりで紅葉くんの話全然聞いてないよねぇ…」
「どうしたんだい、急に」
「今気付いたのぉ。わたしいつも聞いて貰ってばっかりって〜…」

思えばいつも自分の事ばかりで壬生の話を聞いていない。壬生も自身の事を話す事は滅多にないが、それにしても余りにも一方的過ぎる気がする。

「…そんな事ないよ」

やはり、壬生は優しいからそう言うけれど、本当は煩わしく思っているのかもしれない。迷惑なのに龍葉だけが親友だと一方的に思っているのと同様に。
そう思うと一気に自己嫌悪に陥り、一層面伏せてしまうが、それと同時にテラスに面する通りから静かな殺気を感じ、龍葉は目を見開いてばっと顔を上げた。

「……?」

龍葉は緊張して雑踏を眼だけで見渡し気配の元を探るが、歩道は人や店が雑多として判別が出来ない。別に何か悪い氣を感じる訳ではないから《力》絡みの敵ではないだろうが。
見れば壬生も微かに険しい顔で雑踏に目を向けている。

「…紅葉くん…」
「…気付いてしまったかい?」
「え…?紅葉くん知ってたのぉ…?」
「ああ、実は龍葉に会う前からずっとね」

雑踏に目を向けたまま壬生は続ける。

「さっきまでは極僅かだったけど、いよいよ痺れを切らしたようだ。人混みにいる限りは襲ってこないだろうと諦めるのを待ってたんだけど、どうやら相手は形振り構わない、程度の低い連中らしいね」
「同じ…アサシン…?」
「多分ね。報復だろう」

壬生は珈琲を一口飲むと椅子から立ち上がる。

「紅葉くん?」
「ちょっと片付けてくるよ。すぐ終わらせるから龍葉はここで待っててくれ」
「片付けるって〜…」
「大丈夫。少し眠って貰うだけだよ。拳武館のアサシンは無駄な殺生はしないさ」
「…わたしも行く〜!」
「え?」

龍葉も鞄を持って立ち上がるが、壬生は渋い顔をする。

「そんなに僕が信じられないかい?」
「そうじゃなくてぇ、紅葉くん一人に危険な目に遭わせられないよぉ」
「相手の狙いは僕だ。それに君は本来争い事は好きではないだろう?こんな事で無用に手を煩わせたくないよ」

困ったように苦笑する壬生に龍葉は首を強く振る。

「違うよぉ。確かに好きじゃないけどそれはわたしの都合でぇ、わたしはそれ以上に大切な人が傷つくのは嫌なのぉ!」

龍葉は凛とした強い眼差しを壬生に向けて、自身を指し示すように胸に手を当てた。

「紅葉くん。今ここにわたしがいるのに、わたしを頼らないなんて言わないで」
「龍葉…」
「どんな相手であれ、一人より二人だよ」

龍葉はにこっと笑う。
龍葉の語尾が普通になる時、それは龍葉が真剣そのものの本気である事を示している。意識している訳ではないが、どうも力むと本来の喋り方が出てしまうのだ――かと言って勿論普段が、ぶっている訳ではない――。
壬生もそれを知っているから、そんな風に言われては無下には出来ないと、観念したように苦笑して、龍葉の申し出を有り難く受ける。

「…本当はたまには君にゆっくりして貰いたかったんだけど、そう言ってくれるなら有り難く力を貸して貰うよ。いいかい?龍葉」
「勿論だよぉ!ありがとぉ紅葉くん」

龍葉はこだわりなく笑って、行こう、と壬生と駆け出した。
その道中、壬生はそうだ、と龍葉に声を掛ける。

「龍葉」
「なぁに?」
「さっきの続きだけど…」
「え?」

龍葉は少し斜め前を走る壬生を見る。
壬生も一瞬だけこちらに振り向いて微笑すると、またすぐ前を向いた。

「僕は、龍葉の話を聞くのは嫌いじゃないよ。上手く言えないけど、こんな僕でも君と話していると普通の高校生に戻れているような気がするんだ」
「――…」
「別に今の道を後悔してる訳じゃないけど、君と会って気付いたんだ。どんな悪人であれ、人を殺めるのはやっぱり気持ちの良いものじゃないって…」
「紅葉くん…」
「だから龍葉、これからも僕でよければ話して欲しい。どんな事でもいいから、君の話を。君の話は本当に元気になるから」

位置のせいで壬生の表情は分からないが、親しみの籠る柔らかい声音は、気遣いや嘘でない事がはっきりと分かる。龍葉は嬉しさで頬が上気するのを感じて、照れ臭そうに笑った。

「エヘヘぇ、ありがとぉ」
「いや…。でも、今はお喋りはここまでにしようか」
「うん」

人気の無い路地裏に入って二人は立ち止まると、背中合わせに立つ。

「…さて、出てきなよ。お望み通り相手になってあげるよ」

壬生がどこへともなく低く声を掛けると、ふ、と一斉に六人ばかり影が周りを取り囲んだ。

「フフ、ようやく観念したか、拳武館の小僧…」
「観念するのはそっちだよ。折角大人しく引き上げたら見逃してあげようと思っていたのに」
「減らず口を…」

スーツを着込んだ柄の悪い連中は一見任侠集団にも見えるが、発するのは暗殺者の暗く鋭い殺気だ。ただ同じ暗殺者でも壬生の気はもっと洗錬されて、気高く研ぎ澄まされているが。思いながら龍葉は、まるで場違いな自分に苦笑する。
そんな龍葉に一人が目をつけ、にやにやと厭らしく笑いながら近寄ってくる。

「なんだ?女連れとは随分余裕だな。へへ、女の方は見逃してやるからこっち寄越しな」

そう言うと龍葉に手を伸ばし腕を掴もうとする。
が、次の瞬間、ぐるりと男の世界が回ったかと思うと、アスファルトにしたたかに背中を打ち付けられた。

「――…?!」

何が起こったか理解出来ない男に冷たい声が降ってくる。

「残念だったね。彼女はただの女の子じゃないよ。ひょっとすると僕より強いかもしれないからね」
「それぇ、あんまり嬉しくないよぉ…」
「くそっ…!やってしまえ!」

リーダーらしき男の号令と同時に全員が一斉にかかってくる。ナイフや武器を持った者がほとんどだが、龍葉と壬生は動じず待ち構える。

「行くよ〜紅葉くん」
「ああ。…表裏の龍の技、見せてあげよう―――」



「…今日はありがとう龍葉。助かったよ」
「ううん〜。こっちこそ嬉しかったよぉ」

刺客を倒して路地を出ると、辺りはもう日が暮れていた。まだ話したい事はあったが、二人は仕方なく家路へつくため駅の方へ向かう事にした。

「でも紅葉くんも大変だねぇ…。あんな事しょっちゅうなんだよねぇ?」
「まぁそれだけの事をしているからね…、当然だよ」
「わたしならいつでも力になるよぉ。だから遠慮しないで声掛けてね〜?」
「それは僕の台詞だよ。余り無理しないようにね」
「…龍葉?それに…壬生?」
「え?」

龍葉と壬生が笑いあっていると、不意に背中から誰かに呼び止められて振り返る。

「…あ――、翡翠くん…!」

声を掛けてきたのはなんと龍葉の意中の相手、如月翡翠だった。
龍葉の表情が驚きから喜びに変わり、偶然に目を丸くしている如月に抱き着く。

「わ〜!こんな所で会えるなんてぇ」
「如月さん。どうしてここに?」
「ああ、この界隈に店を構える知人の骨董品店に、珍しい品が入ったから見せて貰いに行っていたんだ」

如月は龍葉を押し返しながら二人を見較べる。

「龍葉はともかく、壬生こそこんな所にいるなんて珍しいじゃないか。二人で遊んでいたのか?」
「いえ、僕たちも偶然会って、さっきまで話していたんです」
「エヘヘぇ、翡翠くん妬いちゃう〜?」
「何を馬鹿な事を…。…それより、何かあったのかい?」
「え〜?」

龍葉が首を傾げると、如月は龍葉の腕を掴んで持ち上げた。

「拳が少し傷んでいる。壬生も、靴に血がついているよ」
「…!…鋭いですね」

自身も気付いていなかった靴の血を指摘され、壬生は苦笑する。

「職業柄観察は得意でね。…手甲を着けなければならない相手ではなかったようだが、二人だけの時は余り無茶をしない事だ。龍葉も、一応女の子だろう?」
「一応ってぇ〜…」
「僕の戦いに彼女を巻き込んでしまったんですよ。すいません…」

申し訳なさそうにする壬生に、如月は龍葉の腕を離しながら怪訝とする。

「何故僕に謝るんだ?それにどうせ首を突っ込んでいったのは龍葉だろう」
「本当に鋭いねぇ〜」
「全く…」

悪びれずへらへら笑う龍葉に如月は溜息を吐いて壬生を見る。

「壬生も、龍葉の相手は大変だろう」

だが、壬生は微笑を浮かべ首を振った。

「意外と、そんな事はありませんよ」
「…そう…か…」

予想外の答えに如月は目を丸くし、ふと龍葉を見て更に怪訝とする。嬉しそうに細まる龍葉の目の先には壬生がいて、壬生も龍葉を見て笑みを交わしている。
一体何があったのか。如月はやや気に掛かったが、馬鹿らしいと頭を一つ振ると二人に向き直った。

「じゃあ僕はこれで失礼するよ。二人も余り遅くならないようにな」
「あ〜、わたし達も帰ろうと思ってたの〜。一緒に行こうよぉ」
「一緒って…、駅はすぐそこだろう」
「少しでも一緒にいたいもん〜。ね?紅葉くん」
「僕もかい?」
「うん、三人で帰ろぉ」

龍葉は如月と壬生の間に入ると、二人の腕に腕を絡めて引っ張るように歩き出す。引っ張られながら如月と壬生は顔を見合わせると、仕方ないな、と苦笑して、後は引かれるに任せた。

「エヘヘぇ」
「なんだい?」
「なんでもなぁい」

好きな人と親しい友人。龍葉は最高の放課後に満面の笑みを浮かべた。






何か青春(笑)
別に三角関係とか二股とかそういう訳ではないんです。はい。
でもこの三人中心に話進められたらなぁってw
だって壬生ってポジション的に美味しいというか、兄弟弟子っていいよねぇ(´ω`)如月とも麻雀仲間な訳だし。ところで壬生って如月とかには基本敬語でいいんですよね?
他に御門と村雨も好きやから絡ませたいけど難しいかな?

で、書いてて紅葉と龍葉、「葉」の字が被ってる事に気付いてちょっと焦った。益々兄弟弟子っぽく(笑)
あと龍葉の語尾には色々理由があってっていう。本当にブリッ子ではないんですよ?

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【2008/08/04 02:37 】 | その他 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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