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【2026/08/18 20:44 】 |
絆と心
エピローグ的な。







――結局、彼と彼等の繋がりに何の関係も影響もない自分は、やはりいつだってこうして傍観するしかないのだ。

目の前の光景を木の陰からそ、と覗きながら、涼浬は唇を噛んだ。
今より少し前、陰気を感じて涼浬はこの場へと駆け付けた。すると龍斗と天戒が危機に陥っていて、助けようと思ったけれど、その前に飛び出して行った影があった。そうして驚いている内に危機は救われ、そこからはただもう目を見張るばかりの素晴らしい連携で敵を蹴散らした龍斗と鬼道衆の面々は、龍斗は元より最早鬼道衆の面々さえもかつての溝等微塵も感じさせなかった。

――凄い、とも思うし、悔しい、とも思う。

龍斗と固く手を組む天戒を見れば、昨夜の憂い等もう微塵も見せず、すっかり心を許した穏やかな眼差しで龍斗を見ている。江戸の町や鬼哭村、引いてはこの日本国の危機的状況を思えば、まるで似つかわしくないにも関わらずそうさせてしまうのは、やはり龍斗の人柄に因る所が大きいのだろう。
その心の広さ、その懐の深さ、一体どれだけの者を救い上げればその器は満たされるのだろうか。心のまま素直に、貪欲に龍斗は人を求める。
そして、自分には到底理解しきれない筈の人なのに、どうしても考えてしまう不思議な人。その眼差しが自分だけに注がれる事は決してあってはならないのに、誰もがそれを求めたくなってしまうような。

不思議な――――

「―――…り……涼浬!」
「…っ!」

はっ、として視線を上げると、涼浬は目をしばたかせる。目の前には怪訝とした顔の龍斗がいて、一寸驚くと小さく身を引いた。

「どうしたんだ?呆っとして」
「ぇ……い、いえ…」

涼浬はたじろいでおどおどと耳に髪を掛ける仕種を取ると、そうだ、と飛ばしていた思考を引き寄せた。
つい先程までは木の陰にいたつもりだったが、今はその午刻から数刻経ったもう夕前で、既に二人は鬼哭村を後にして龍泉寺へと帰る道中の畦道であった。先の戦闘で挫いた足を気遣いながら、この分では帰り着く頃にはすっかり日も暮れてしまうだろう、と龍斗が話していたのを思い出す。まるでお伽噺の様に刻を越えた気がして、涼浬はどれ程己が自失していたかを思い知らされ、恥じ入ると俯むいた。

「すみません…ご心配をお掛けしました…」
「いや、いいんだけどさ…。何かずっと調子悪そうだな、今日。大丈夫か?」
「―――…?!」

しかし気遣わしげな声と共に、急に額に掌が触れる感触がして、涼浬は驚くと今度こそ大きく身を引いた。

「――…」

しかしその反応に龍斗もやや驚いた様で、涼浬は咄嗟にしまった、と思うが、相手は空中に浮いて遣り場に困った手を軽く握ると、そのまます、と引いた。

「あの…」
「熱は、無さそう、だな…」
「っ………」

きょとんとしつつも何か腑に落ちない様子の龍斗に、涼浬はかぁ、と頬を染めると、また俯いて手を固く握り込んだ。
それまではまだ平気だった龍斗に触れられるという行為が、今は何故か無性に気恥ずかしく感じ、またこんな初心な反応をしてしまう自分自身も恥ずかしくて情けなかった。そう、今朝のあの龍斗の問い掛け以来、妙に龍斗を意識してしまっている。

「…あ〜……あのさ、涼浬…」

経験した事のない感覚に涼浬はどうしていいか分からず黙り込んでしまうが、龍斗は気不味そうにしつつも、窺うように涼浬を覗き込んでくる。

「今朝の、事…だけどさ…」
「…えっ……」

そしてあんな反応をしていては当然だろう龍斗もやはり気になっていたようで、視線を逸らしながらも尋ねてくる。

「俺…あれをどう取ったらいいのかな…?」
「どう…って……」

涼浬はまた熱が上がる頬を感じる。同じ様に龍斗の頬も微かに色付いて、どこか焦りを見せながら両腕を掴んでくる。

「俺、ずっと考えてたんだ」
「龍斗さん…」
「俺…俺の勘違いじゃなかったら涼浬、もしかして…お前は、俺を…」
「―――待って」

しかし、龍斗が最後を言い終える前に涼浬は軽く押し返すと、掴まれたまま肩を竦め、ぎゅ、と目を瞑る。

「涼…」
「待って…ください…。言わないでください。お願いです…まだ…言わないで…」
「…――」

――分からない。
涼浬は拘束が緩み、放れていく手を感じながら途方に暮れる。
そもそも本当に何を考えて、あの時龍斗と比良坂の後を追ってしまったのだろうか。いつも、忍に相応しく水紋一つ無い深い泉の水面の様に、静寂な己でありたいと願っていた筈なのに、殊緋勇龍斗という人物が絡んで来ると途端にそれが崩れ、些細な事でもこんなに胸が苦しくなったり高鳴ったりしてしまう。
まるでその一つ一つに一喜一憂している様などこか浮ついたこの感覚に、もし名があるとしたらそれは何なのか。そして、龍斗なら本当にそれを知っているのかもしれない。
そう、知っていても不思議は無い。現にこれまでも、龍斗は色々な事を涼浬に教えてくれた。
――だが。

「ごめんなさい…、聞きたくないのです、貴方からは…。これ以上頼りたくはないのです」

自立心、とは少し違うが、この気持ちの問いに関しては、漠然とした頼ってはいけないという思いがした。

「これだけは私が己で答えを見付けなければならない、そんな気がするのです。だから…言わないでください…今はまだ……」

だが、それでももし聞く事があるのなら、それはせめてもっと確実な糸口を掴めてからでなくてはいけない。答え合わせの時、どんな答えが返っても揺るがないだけの自信と確信を持てなければ、今の決意は結局ただの空回り、子供の背伸びで終わってしまう事になる。
それは、このまま甘え続けるよりもずっと情けない様に思えるから。

「――…分かった」

溜息混じりのひっそりとした声に、恐る恐る顔を上げる。今まで散々頼って来た癖に今更生意気だと思われただろうか。
しかし見返した龍斗の顔はきょとんとするくらい晴れやかで、涼浬は言葉を失ってしまった。呆れとも安堵ともつかない何だか不思議な笑顔だが、穏やかで優しい。
分かった、と言ってくれたが、その表情に意表を突かれて涼浬が何とも言えずにいると、不意を突いて伸びて来た龍斗の手にうっかり頬を取られ、驚く間もなく間近に迫って来た顔に息を飲む。

「でも、涼浬…。もしその答えが解ったら教えてくれ、俺に」
「――え…」

気が付けば龍斗の瞳は穏やかな物から熱い物に変わっていて、涼浬の瞳をしっかりと縫い付けて離さない。

「俺は受け止めるから。どれだけ時間が掛かろうと涼浬が出した答えなら、どんな物でも必ず受け止めるから」
「龍…斗さん……」

蘇る息苦しい程の胸の高鳴り。微かに甘く、確かに強く。届く声は微塵の揺らぎも見せず真っ直ぐ心に響いて来る。
思い返せば、それは今まで幾度も向けられていた筈だが、どうして深くその意味を考えてこなかったのだろうか。
例えその源が分からなくても、それはこんなにも胸を熱くさせるのに。

「…だから、必ず俺に…俺だけに」

見つめ合ったまま、龍斗は頬に添えていた手で涼浬の手を持ち上げると、どこか悪戯めいた微笑を浮かべて小指に小指を絡めてきた。

「約束だぞ、涼浬」

緊張で思考が追いつかない所為で、小指の関節は固くぎこちなかったが、しっかりと絡まった小さな温もりは涼浬の固く結んでいた唇を自然と解し、やがて言葉までも呼吸のように引き出した。

「―――…はい」

けれど、それは確かに涼浬の意思で。
龍斗は満足そうな笑みを浮かべると、絡めた指を一旦解いて姿勢をくるりと変え、歩き出したと思ったらそのまま涼浬の手を引っ張った。

「た、龍斗さん?」

驚いてつんのめる涼浬を振り返った龍斗の顔は、まるで少年のように無邪気だ。

「たまにはいいだろ?」

そしてそんな風に笑われてはもう成す術もなく、また特に断る理由も思い付かなかった涼浬は、自分にも龍斗にも苦笑して、極緩く握り返すと小さく頷いた。
龍斗も龍斗だが、こうして繋がっていられる事が何だか少しくすぐったくも嬉しく思う自分も、よっぽど子供っぽい。そう、思って。



「…龍斗さん、今回鬼哭村に来れた事、良かったですか?」

引かれて歩きながら、涼浬はふと訊ねてみる。

「良かったよ、勿論。…嬉しかった」

前を向いたまま答える龍斗の顔は窺えないが、声から滲み出るそれで充分判り、涼浬はやはり一抹の寂しさを覚える。

「…本当に、お好きなんですね」
「龍閃組も、な」
「…―――」

しかし龍斗はそんな狭量でさえ見透しているようで、ちらりとこちらを見るとにっ、と笑う。

「鬼道衆だからとか龍閃組だからとか、そんなのは関係ない。仲間は、絆は沢山あった方がいいって、そう思わないか?」

そして渇いた土に染み込む清水の様に、じんわりと心に広がる言葉。この人には敵わない、そう思う最大の要因。

「――そうですね」

誰もが皆、尖った心も優しくなる。
涼浬は目を伏せ、ほ、と微笑するが、龍斗はでも、と呟き立ち止まると、繋いだ手に少し力が籠もった。

「涼浬とは、それだけじゃないって思ってるけど」
「え…?」

そして再び見遣った龍斗と目が合い、涼浬は目を見開く。

「絆は沢山でも、心は一つだけだから」

ふわりと細められた目は、気付けば背後に浮かぶ夕陽を背負っていても澄んでいる事が分かる様な光を堪えている。

「いつか、それも手に入れられたら、俺はきっと最高に幸せな男だと思うよ」
「龍斗さん…―――」

分からないなりにも分かる。
それは他でもない、涼浬自身に向けられている言葉だと。

そう、これ以上の答えは出ないけれど、その代わりに、涼浬は繋がった手を強く握り返した―――――



続・外法帖第弐拾七話




あれ?何か中途半端…?それに珍しく短い。ちゃんとまとまったのかこれ?
まぁまぁ何はともあれ「絆」はこれで終了です。
長かった…。話も掛かった期間も長かった…。にも関わらずここまで読んで下さった方には心よりお礼申し上げます。未だ終わらないけど涼浬の鈍感っぷりにイライラなさったでしょう、すみませんでした(´・ω・`)

さて、後はこの二人どうしたらいいんだろう?もう一本だけゲーム内にはない所考えてるけど、それが終わったら終わっちゃう?
う〜ん………。


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【2011/05/16 01:34 】 | 主×涼小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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