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【2026/08/11 15:48 】 |
緋勇龍葉の暴走・後編
傾向:シリアス
色々重い…。重い思い想い。




北区王子、ここ暫くどこか鬱々とした気分が抜けない如月は、軽い買い物の帰り、自身の店の軒先にある人物を見付け絶句した。
座り込み、どこか青白い顔で死んだように目を閉じている少女は今病院にいる筈で、昨日までは確かにベッドで深い眠りに落ちていた筈だった。それが何故一人でここにいて、こんなにぐったりとしているのか。
しかしそのありえない光景に如月ははっ、と我に返ると慌てて駆け寄り、膝を着いてその少女を覗き込んで頬を叩いた。

「龍葉…龍葉っ!」

するとその少女龍葉はふっと、意外とあっさり目を開け、如月を瞳に映すとへにゃりと笑みを浮かべた。

「あ〜…翡翠くんお帰りぃ…」

状況の割には暢気な第一声に如月は肩透かしを喰らうが、触れた頬が氷のように冷たい事に気付きぞっとすると、急いでマフラーを外して寒そうな龍葉の首に掛けた。

「お帰りって…何でこんな所に君がいるんだ!それにこんなに冷えて…、君は今病院にいる筈だろう?!」

マフラーをぐるぐると巻いてやりながら如月は声を荒げるが、龍葉は意に介さず当然のようにケロリと言ってのける。

「だってぇ、今日はわたしの誕生日だもん〜。翡翠くんに会いたくてぇ」
「誕生日って…そんな事で…」

如月は馬鹿らしさに唖然としてがくりと頭を落とすが、その先で目に入った龍葉の足元の様子に更に眉間を寄せる。

「…スリッパで来たのか?!」
「え?」

黒いロングコートから伸びる素足の先は、信じられない事に爪先が擦れた薄いスリッパしかなく、触れば当然ひやりと冷たい。裾の隙間から覗く水色の服も恐らく病院が用意した入院患者用のガウンだ。改めて見るとこのコートだって龍葉の趣味とは思えず、明らかにサイズも大きかった。

「…この格好…。まさか勝手に抜け出して来たんじゃないだろうな?」
「あぅ…そのぉ〜…」

じろりとねめつけると案の定龍葉は目を逸らし、如月は盛大に溜息を吐くと一気に捲し立てた。

「全く…馬鹿か君は!そんな事をすればどれだけ周りに迷惑を掛けると思っている?!身体だって…あれ程の大怪我をしたんだぞ君は!それなのにこんな軽装で一人で出歩いて…もし敵にでも遭ったらどうするつもりだったんだ!」
「でもぉ…」
「でもじゃない!君は分かっていないのか?!自分がこの東京にとってどれ程重要な存在なのか!…僕が…一体どれだけ心配したと…!」

感情の昂りと共に蘇るやりきれなさに如月は言葉を詰まらせる。
あの日、静かな部屋に響いた電話のベル。まさか悪い報せだなどとは思いもせず出た受話器の向こうから聞こえてきた暗い声。そしてその声が告げる報せに頭の中は、一瞬真っ白になった。
闘いに身を投じていればいつかはそういう事もあるのかもしれない。そう思いつつも、普段の彼女を見ているとそんな世界とは無縁にも思えて。だからこそその笑顔が曇らないよう、きっとどんな状況でも誰かが護ってくれるに違いないと思っていた。
けれど病院で見た龍葉は確かに傷付いていて、普通の女子高生が負うには大き過ぎる非現実的な傷は、そのまま彼女が身を置く世界を現し、いつだって死と隣り合わせだったのだと、誰も護る事が叶わない時もあるのだと思い知らされた。
もしこのまま彼女が死んでしまったら。そう思うと怖くて、そうなればきっと如月は一生自分を許せなかっただろう。
それは、何より龍葉が―――

「でも…」
「――…?」
「でも会いたかったんだもんっ…!」

悴む手できゅっと腕を掴まれ、俯けていた顔を上げると、今にも泣きそうな龍葉の顔がそこにあった。

「誕生日だし…明日はクリスマスだし…楽しく過ごしたかったのに…気付いたらベッドの上で…。っ…こんな誕生日やだぁ…」

龍葉はまるで駄々をこねる子供のように首を振るが、今ばかりは如月とて折れる訳にはいかなかった。

「…龍葉、桜ヶ丘に戻ろう」
「!翡翠くんっ…!」
「誕生日を祝いたいなら病院でも祝える。ケーキが欲しいなら買って行けばいい。僕も一緒に謝ってあげるから、頼むから今は大人しく病院に戻ってくれ」

見込みがないのだと諦めるよう淡々とした口調を装い、如月は毅然とした態度を示すが尚も龍葉は聞かない。

「……やだ…」
「龍葉」
「やだやだ…!病院でなんかやだぁ!お洒落なカフェで可愛いケーキを食べながらツリーを見るのぉ!イルミネーションの中を一緒に歩いて…翡翠くんと歩いて……綺麗だねって…それで……それでっ……」
「龍葉……」

一体何がそんなに気に喰わないのか。いつもと明らかに様子の違う龍葉に、如月はすっかり困り果ててしまう。
龍葉は確かに強引でわがままな部分はあるが、ここまで聞き分けがないのは初めてだった。普段から子供染みていても賢い彼女の事。今どうするのが一番正しいのか理解していない筈がないのに。
こう頑なでは彼女の為を思っての言葉も届かない。

「…とにかく、一旦家に入ろう。ここは寒過ぎて身体に悪い」

如月は疲れたように溜息混じりに言うと立ち上がる。先程から冷たい風が吹き付けて、怪我人が押し問答するには気候が悪過ぎる。

「……デートはぁ…?」

龍葉は蹲り、ぐすっと鼻を啜りながら呟くが、如月は素っ気なく言い放った。

「無しに決まってるだろう。怪我人を連れ回す訳にはいかない」
「…もう治ったもん」
「…幾ら君でもたった四日で治るものか。さぁ立つんだ。いつまでも駄々をこねないでくれ」
「っ…――!」

如月は半ば強引に立ち上がらせようと龍葉の腕を引っ張るが、その途端龍葉は小さく呻いて顔を歪ませる。

「………やっぱり治ってないじゃないか」
「………」

如月が掴んだ斬られた左肩に続く腕。やはり動かすのが辛いのか、確か先程掴んできた手も反対の右手だけだった。
それでも頑として聞く気はないらしく、龍葉はそっぽ向いて拗ねるように口を尖らせながら肩口を押さえる。

「…やだ…誕生日だもん…」
「…せめて家にだけでも入ってくれ。寒いだろう?」
「寒くないからツリー見に行くのぉ…」
「っ〜………」

そのしつこさに如月はいい加減怒鳴りたくなるが、それでは逆効果だと喉まで出かかった怒声を飲み込むと、代わりに大きく溜息を吐いて踵を返した。

「翡翠くん…?」

そして訝る龍葉を無視して玄関へ回り、鍵を開けてから再び戻ると、そのまま是非を問わず龍葉の背中と膝裏に手を入れ、ぐっと一気に持ち上げた。

「――…?!」

すると当然龍葉は驚き、目を白黒させて如月を見る。

「ひっ…翡翠く…!」
「暴れないでくれよ。勧告を聞かないなら強制執行しかないだろう……ん?」

不本意ではあるが、怪我で、しかも言う事を聞かないなら仕方ないと如月は龍葉を抱え上げるが、その下に隠れるようにあった、リボンとビニールの掛けられた小さな白い花束に気付くと首を傾げる。

「それは?」
「ぁ……クリスマスローズ…」

龍葉も思い出したように振り返ると、その聞き慣れない名の花に手を伸ばす。拾いたいのだと、如月が一旦腰を落として助けてやると、花を拾い上げた龍葉は何やら迷うように花と如月を見比べた後、伏し目がちにそっと差し出して来た。

「…?」
「クリスマス…プレゼント…。買ったの…来る途中…」
「………すまないが、僕は何も用意してないよ」

そういえば自分の誕生日にはプレゼントを貰ったのに、考える事が多くて正直今の今まで龍葉の誕生日を失念していた如月は、苦笑して首を横に振る。しかし龍葉は構わず更に差し出してくる。

「いいの…別にそんなの…」

笑顔など無く、どこか思い詰めたような表情に変わる龍葉を如月は不審に思うが、一先ず早く暖まらなくてはと、仕方なしに頷いた。

「じゃあ…貰うよ。ありがとう」
「……うん…」

すると龍葉もようやく手を下ろしたが、それでも浮かない様子は変わらず、家に向かう間も両手の塞がる如月の代わりに持った花を、ずっと胸に抱いて瞳を揺らしていた。



「龍葉、ここに足を入れて暖めるんだ」

家に入ってまず如月は玄関に桶とお湯を用意すると、そこに足を浸けさせ温めている間に、炬燵やらストーブをてきぱきと用意し部屋を暖める。そして悟られないよう桜ヶ丘に連絡し、落ち着いたら連れて行くと伝えると、そろそろかと龍葉を呼びに行った。

「龍葉、足は温まったかい?」

機嫌をこれ以上損ねないように努めて優しく訊ねると、龍葉はむっつり黙ったままこくりとだけ頷く。

「そうか、良かった。…霜焼けになるから本当はすぐ風呂に入る方が良いんだが、その怪我じゃそういう訳にもいかないからね。まぁ少しの痒みは自業自得だと思って我慢することだ」

如月は笑い含みに言いながら足を拭いてやると、背中を叩いて暖めた部屋へ促す。そして炬燵へ入れると、龍葉の目の前に湯気の立つ湯飲みを置いて、自身も龍葉の正面へ回り炬燵へ入った。

「もし大丈夫なら葛湯。即席で悪いけど、甘めにしたからもっと暖まるよ」

しかし拗ねているのか龍葉は口を付けようとせず、ただ俯いて押し黙ったまま、まだ自分にくれた筈の花を抱えている。どんな返事を期待した訳でもないが、如月はそれに小さく溜息を吐くと苦笑した。

「…誕生日だと言うのなら、もっと楽しげにすればいいのに」

すると龍葉はぴくりと反応して恨みがましく呟く。

「…翡翠くんの所為なのに…?」
「いいや、君は最初から楽しそうじゃなかったよ」

如月は自分用にも淹れた葛湯を一口啜る。

「龍葉、一体どうしたというんだい?今日の君は明らかにおかしい。そもそも君は周りに迷惑を掛けてまで自分の楽しみを優先するような人間じゃない筈だ。それなのにこんな無茶をして、わがままを言って…。ただ誕生日を楽しみたいだけというには少々無理があるよ」

咎めたいのではない。心配だからこうして気を揉んでいるのに、龍葉はやはり相変わらずだった。

「…好きだから………。翡翠くんが…好きだから…」
「龍葉…」
「翡翠くんが好きだから会いたかったの…」

そんなこちらの思いも分かって貰えず、ただ一方的に押し付けられる想いの何と煩わしい事か。如月は大きな溜息と共にうんざりとした口調で吐き出す。

「…それはもう聞いたよ。たかが誕生日がそんなに重要なのか?」
「違っ…!………っ…―――」

その一言に龍葉は弾かれたように面を上げるが、しかし再び面伏せると、きゅっと下唇を噛み締めて立ち上がった。

「…?」

それを何事かと見上げる如月に龍葉は覚束なく歩み寄り、側に崩れるように膝を着くと、やはり右手だけでぎゅっと如月の袖を掴んだ。

「龍…」
「違う…」
「え…?」
「違うの…そうじゃなくて…。翡翠くん…好きなの…。こんなに好きだって…知って欲しいの…」
「―――…」

そのまま唇に触れてしまいそうな程間近になる龍葉の顔。しかし触れると思ったそれは一瞬躊躇い、不意に下に反れて視界から消える。
座り込んだ龍葉は如月の肩に額を埋めた。

「翡翠くん…わたしは…翡翠くんが好きなの…――」

震える声で精一杯に紡がれる想い。今まで挨拶かのように投げられていたそれとは明らかに違うその声音に、如月は龍葉の本気を知る。
何を焦っているのか、もう待てないとでも言いたげに真っ直ぐにぶつかってくる想いは痛い程で、今回ばかりは逃げる事は叶わないという気がした。

「龍葉…僕は……」

――心を動かされるな。無の心を忘れるな。

「…―――」

しかし、不意に過る言葉に如月は背筋を凍らせる。
昔、祖父は何と言っていたか。あの日、龍葉が斬られた日、自分はまさにこの部屋で何を思っていたか。如月は朧げに揺れて潤む、龍葉の深い瞳を呆然と見返す。
――お前には使命がある事を、努々忘れるでないぞ。

「――翡翠…くん…?」
「龍葉………」

《飛水》の使命は東京を護る事。そして《玄武》の使命は《黄龍》を護る事。
彼女は《黄龍》だった。大地の気を宿し、森羅万象をその身に受け入れる資格を持つ覇者の器。何よりもこの戦いにおいて重要で、決して失くしてはならない希望の要。
病院で京一からそれを聞かされた時、想像以上に大きかった彼女の宿星に背筋が粟立ったのを覚えている。《黄龍》を守護する四神の一《玄武》を宿す者として、彼女と出会い、そして共に戦い護る事は定められていた運命だったのかと愕然とした。
しかし同時に分からなくなったのは、龍葉への今までの想いが如月自身が抱いたモノなのか、宿星が抱かせたモノなのかという事。護りたい、護らねばならないのははっきりとしているが、肝心のその想いの出所が一体どこなのかが分からない。
しかし一方で、その迷いは刃を曇らせる事も如月は知っている。祖父が最も諌めるそれは、これからの大きな戦いへ向けては足枷以外の何物でもなく、それで龍葉を失えば目も当てられない。
《玄武》の宿星、《飛水》の使命、如月翡翠自身。彼女の星を知り、一層大きくなる使命感。この先自分は何を支えに龍葉を護るのか。
どこか冷静で、しかし激しく俊巡する思考に如月は陰鬱となる気分を思い出す。
今の自分には龍葉の真摯な想いに応えられるだけの、度量も覚悟もない。こんな気持ちで応えられるものか。

「―――ごめん…」

ぽつりと零れる言葉は胸に苦い。

「ごめん…龍葉………」
「っ……―――」

一瞬の硬直の後、龍葉の顔は歪み伏せられる。震える手はずるっと放され、そのままぱたりと床に落ちた。

「………」

傷付けた。そう分かっていても、他にどう言えば良かったのか。こういう時、自分の不器用さに心底辟易する。他人との必要以上の関わりを避けて来たツケが、こんな形で現れるなんて。
掛けるべき言葉も、掛ける資格さえもないように思われ、気不味さに如月も黙ってしまう。
しかしその時、甲高い電話のベルが響いて来て如月は音の方を見る。桜ヶ丘からだろうか、やや安堵すると憔然と俯く龍葉を気にしつつも、居間を出て電話へと赴いた。

「…はい、如月です」

なるべく平静を装い、受話器を取った如月の耳に入ってきたのはよく知る友人の声だった。

――あぁ、如月さん。良かった、いましたか…。
「…壬生か」
――はい、突然すみません。もしかして龍葉がそちらに行っていないかと思いまして…。
「…ああ、来てるよ…」
――やっぱり…。
「さっき桜ヶ丘に連絡はしたんだが、壬生も探していたのか」
――ええ、僕が目を放した隙にいなくなってしまって困っていたんです。でも見つかったのなら良かった。如月さん、龍葉を病院まで送れますか?もし何か用があるなら、今駅まで来てしまったので僕が迎えに行きますが…。
「………」

壬生のその申し出に如月は救いを見つけ、一つ息を吐く。

「……頼んでも…いいのか?」
――?ええ、勿論ですけど……何かありましたか?
「………」

声音から沈んだ気分を敏感に察したらしい壬生に気遣うように訊ねられるが、如月は言い様が分からず黙ってしまう。
壬生も返答を待つように間を置くが、いつまでも答えられずにいると、それ以上追求しようとせずさらりと仕切り直した。

――…じゃあ、今から向かいますので待っていてください。
「…ああ…すまない…」
――いえ、それでは…。

そうして受話器の向こうの声は絶える。受話器を置きながら、友人の気遣いに感謝しつつも如月は大きく溜息を吐くと、重い足取りを居間に向けた。

「…龍葉、もうすぐ壬生が迎えに来てくれるから…」

しかし、気不味いながらも意を決して戻った居間には龍葉の姿は無く、また気配も感じられなかった。

「…龍葉?」

不意に、龍葉がどのような手段でここまでやって来たかが思い出される。
迂闊だった―――
瞬時にそう判断した如月は、取る物も取敢えず家を飛び出した。



外にはいつの間にか雪が舞い、夜の帳が降りようとしている。
そんな寒さも一層と増す中、堪えきれず如月骨董品店を飛び出した龍葉はしかし、駅へと向かう途中覚えた痛みに一人蹲っていた。住宅街の道端、寄り掛かる電柱もひやりと冷たく、街灯はまるで悲劇のヒロインかのように龍葉を照らした。

「…っ…いたぃ…――」

痛むそこは肩なのか胸なのか、ズキンズキンと脈打ち、くしゃりとしかめた顔からは大粒の涙がぼろぼろと溢れていく。支える手も胸もなく、ただ雪の冷たさだけに包まれ龍葉は嗚咽と共に肩を震わせた。
胸に苛んでいるのは、目覚めてからずっと消えない死への恐怖と不安。押し潰されそうなそれらから逃げる為、心が求めたのは恋する如月だったけれど、それは受け止めては貰えなかった。万が一、今度こそ死んでしまう事があるのなら、その前にどうしてもこの想いを遂げたかったのに。
行き場を失くした不安や想いは悲愴に暮れ、胸の奥底に澱み、龍葉はもう自分ではどうすればよいのか分からなかった。

「…龍葉――?」

その時、肩にそっと触れる手があり、龍葉はぴくりと反応するとがばっと顔を上げる。

「翡翠く…!」
「――?」

しかし顔を上げた先にあったのは、軽く目を見開いて戸惑いの色を浮かべる壬生の顔だった。

「…紅葉…くん…――」

涙に濡れた声で呆然と呟き、龍葉は壬生を凝視する。
そしてきっと顔を見ると苦しくて悲しくて、だから飛び出した筈なのに、未だ如月の暖かい手を期待してしまった自分の愚かさと惨めさに気付き、龍葉は更に涙を溜めると救いを求めるように壬生の胸に槌がり付いた。心安い友の登場に安堵する心もあったのだろう、涙は一層止まらない。

「…龍葉?傷が痛むのかい?」

まだ困惑の色はあるが、壬生の大きな手が労るように背を撫でる。

「本当に…勝手に抜け出すから…。…随分探したんだよ」

迷惑を掛けたのに叱る様子もなく、こんな道端できっと恥ずかしいくらい泣いている自分を、理由さえも深く問わず受け止めてくれる壬生はやはり安心する。けれどそれ以上に今はただ痛くて痛くて、やりきれない想いに龍葉は泣きじゃくるしかなかった。



「………」

一人帰宅した如月は、後ろ手に玄関の戸を閉めると溜息を吐く。
ここから姿を消した龍葉は無事見つかった。駅へと向かう途中の道端で蹲っているのを見つけ、信用出来る手に委ねられた。そう、龍葉は蹲って壬生の腕の中で泣いていた。
丸まって震える背中に声を掛ける事も出来ず、ただ遠くから見つめるしかない如月に気付いたのは壬生だった。そんな壬生は何か言いたげに口を開こうとしたが、龍葉を一瞥すると再び口をつぐみ、無言のまま目礼をした。任せろ、控えてほしい、大丈夫だ。それはどれとでも取れたが、共通しているのは、今はそっとしておいた方がいいのだろうという事。だから如月も頼む、と目礼を返すしかなく、後はそのまま壬生に委ねた。
思い返し、如月は微かに口角を上げ自嘲する。

「…思えば壬生に悪い事をしたかな…」

壬生には関係の無い二人の事で頼りにしてしまい、更に龍葉を傷付けてしまったまま放置するのはやはり後ろ髪を引かれる。だが病院に戻ってくれるなら、今は何より龍葉の身体が大事なのだから、と自分に言い聞かせると、如月は暖房と明かりを点けたままだった居間に戻る。そうして手付かずの湯飲みを片付けようとするが、ふと龍葉が座っていた位置に何か落ちているのに気付き顔を向けた。

「これは…」

そこには龍葉に貰ったあの花束がぽつんと横たわっていた。買い主と貰い主に置き去りにされ、暖かい部屋で少し萎びれてしまった白いしとやかな花の群れはどこか哀しげで、拾い上げるとはらりと一枚花弁を散らした。その儚い姿に否応無しに蘇る面影に、如月の胸はちくりと痛む。
龍葉はこの花を確かクリスマスローズと言っていた。刺々しさは無いがバラの一種なのだろうか、金のリボンを掛けられ赤い紙と透明のビニールに包まれた白い花達は華やかで、その花束だけでも充分なプレゼントに思える。だがいつも大仰な龍葉にしては控えめでらしくないそのプレゼントに、だかろこそそこに何か特別な意味が込められているのではないかと気付く。

「………本だ…」

不意にそこに思い至った如月は立ち上がると、花を握りしめたまま家の奥にある、祖父と考古学者の父がそのままで放置して行った書斎に向かう。そして目に付いた本棚から順に隈無く漁り、植物図鑑を見つけ出してページを捲った。
贈る花に込めるモノ。それは余りにも明白だった。

「クリスマスローズ……あった、これだ…」

 クリスマスローズ:キンポウゲ科、クリスマスローズ属、総称ヘレボルス

「薔薇ではないのか…。…花言葉は……―――」

しかし花言葉を目に入れた途端、如月は息を呑む。
そのクリスマスローズの花言葉は。
如月は手で目許を覆うと、本棚を背に凭れ呟く。

「龍葉……どうして…君は僕なんだ………」

例えば壬生や京一のような、もっと龍葉を大切にでき、気持ちを汲み取れる男なんて他に幾らでもいるだろうに、どうして龍葉はこんな自分を選んでしまったのだろう。
自分の気持ちさえも見失い、何もかも中途半端になっている自分を。

小さな花束はまた一枚花弁を散らす。
まるで叶わなかった想いに涙するかのように。


 花言葉:追憶、慰め、私を忘れないで、そして――


  『私の不安を取り除いてください』







重い。
ていうか脱線しまくりだったが、やっと上がったその安心だけでもう…。
まぁそれでも重い。一気に重くなっちゃった(´・ω・`)しかも長いし遅い。
僕の悪い癖。(by 右京さん)
うーん…さっさと決着つけたいけど、まだかかるんやろうなぁ…。でもこれ以上はシリアルにはもうならないと思われますが。
龍葉はシリアスやと個性が無くなって、しかも喋らせ辛いしね。

しかしもうgdgdで何を言いたいのかよく分からない事になってます。

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【2009/01/17 00:32 】 | 女主×如小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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