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【2026/08/16 03:15 】 |
緋勇龍葉のケジメ
傾向:ほのぼの
※一連の「緋勇龍葉の嫉妬」の後日談的な話。




秋晴れの10月25日日曜日。ここ私立王蘭学院高等学校では文化祭が催されていた。
長い準備期間を掛けた二日間の祭典も今日で閉幕。初日の生徒と父兄限定の時とは違い、一般解放される最終日は外部客も交え、学内は俄然盛り上がりを見せている。
そして如月翡翠が所属する三年四組も例外ではなく、各々高校生活最後の文化祭を存分に満喫していた。
しかしその中心となるべき文化祭実行委員の如月は、周りの喧騒とは裏腹に訪れたとある三人組の客に頭を抱えていた。

「………龍葉…何だい?この面子は…」
「え〜?」

三年四組の教室の入り口では、抑えた調子だが青筋を浮かべ、片眉をピクピクと引き吊らせる如月と、相変わらずへらっとした調子で首を傾げる龍葉が向かい合っている。龍葉はいつもなら即注意するところの馬鹿っぽい仕草だが、今如月が注目しているのは龍葉の背後、両サイドの派手な金髪二人だった。

「HAHAHAHA〜!ヒスーイ!今日はお招きありがとネ!」
「すまねぇな如月サン。邪魔してるゼ」

大きい図体を揺らし、教室中に響き渡ろうかというくらいテンションの高い笑い声を上げるアランと、こんな場所でも不自然さを気にせず槍の入った長い袋を担ぎ、逆立てた金髪で軽薄な見た目の雨紋。どちらも周りの客と比べるとかなり浮いているのに、これに見た目こそ普通なれど、性格に少々難ありな天真爛漫な龍葉も加わると、三人をよく知る如月にとっては軽く頭痛を覚えるくらい騒がしい組み合わせになる。

「誰か誘っておいでとは言ったけれど、よりにもよってこの二人は無いだろう…」
「でもぉ、二人が行きたいって言うし〜。お祭りはやっぱり賑やかな方が良いかなぁって〜…」
「そうだよヒスーイ、アミーゴの言う通りネ。ボク日本のお祭り大好きデ〜ス!女の子一杯タノシーネ!」
「結局それかよ…。頼むから今日は大人しくしててくれヨ。じゃねぇと如月サンに殺されるゼ」
「よく分かってるじゃないか雨紋」

実に爽やかな笑顔でさらりと釘を刺すと、如月は再び龍葉に視線を戻す。

「まぁとにかく、来てしまったものは仕方がないからもういいけれど、くれぐれも騒ぎだけは起こさないように気を付けてくれよ」
「は〜い」
「二人の事はボクに安心して任せるネ!」

如月の忠告に龍葉がやはりへらっと手を挙げて了解を示すと、アランは誇示するように自らの胸を叩き、空いた手で龍葉の肩に手を回した。

「…僕が特に心配なのは君なんだけどね、アラン」
「ンな事よりよぉ如月サン。如月サンのクラスは何ヤってんだ?サ店?」

小学生と引率教師のような先輩三人のやり取りに呆れ気味の雨紋は、如月のクラスを覗きながら訊ねる。

「ああ、ケーキ屋だよ。そこの看板に書いてあるだろう?」
「ケーキぃ?!如月サンが?オレ様はてっきり骨董の歴史展みたいなモンでもやってンのかと思ってたぜ」
「…雨紋、勿論それは冗談で言ってるんだよな?」

文化祭の出し物はクラス全員で考えるに決まっている。わざとらしく驚く雨紋に如月は出そうな拳を抑える。全くもって相手をするのに早くも疲れてきた如月だが、今度は龍葉が袖を引いてくる。

「へぇ〜、わたしケーキ大好きぃ!ねぇねぇ翡翠くんも作ったのぉ?」
「まさか。作ったのはほとんど女子で男子は設営だ」
「なんだぁ…翡翠くんの食べてみたかったのにぃ…」
「おいおい昼間っからエロいゼ龍葉サン」
「……?」

指を加えて残念がる龍葉にニヤニヤと雨紋がチャチを入れると、龍葉は一瞬キョトンとして、一拍置いてから赤面すると雨紋の肩をバシバシ叩いた。

「もぉやだぁ雷人くんってばエッチぃ〜」
「ヘヘッ」
「HAHAHAHA!ボクも混ぜて欲しーネ!3PでEnjoyネ!」
「なっ…?!アラン…!」

龍葉や雨紋のようにその場だけで済めばともかく、声がよく通るアランまでとんでもない事を言い出すので、通行人や教室にいる客達は不審そうに視線を向けてくる。如月は築いてきたクールなイメージから知り合いとは思われたくなかったが、三人の自由さにもはや怒りを通り越してげんなりとしてしまった。周りの同級生達が何やらこちらを見て、ひそひそ会話して笑っている気がするのも気のせいではないだろう。

「…ちょっとあなた達、もう少し静かな声で喋ってくれない?」

到底三人を掌握仕切れず如月が呆然としていると、背後から険を含んだ声でつかつかと足音が近寄ってきた。

「全く…さっきから丸聞こえよ」
「た、橘さん…」
「あ…―――」

腰に手を当てて怪訝そうな顔でやってきたのは橘朱日だった。その姿を認めた途端龍葉は笑みを引いて、何やら消沈した風になる。

「すまない…今どこかにやるから」
「どこかにってオレ様達は物かヨ。それより確か朱日サンだっけか?おヒサしぶり」
「雨紋君…だったわよね?こんにちは」
「Oh!いつかのヒスイのガールフレンドネ!元気そうで何よりデース」
「その節はどうもありがとう。ええと…」
「ボク?ボクはアラン蔵人ネ」
「そう、アラン君」

朱日は雨紋やアランとも面識があるらしく、にこやかに二人と挨拶を交わしている。
龍葉も一度は面識があるが、あの時はとても平静でいられず、今思うとかなり失礼な態度を取ったような気がして輪に入るのには少々気が引けた。そうして心持ち如月の後ろに隠れてしまった龍葉だが、朱日はしっかり龍葉にも声を掛けてきた。

「緋勇さんも、久し振りね」
「あ…う、うん〜」
「そういえば如月君とは仲直り出来たのね。良かったわね」
「…え?」

その言葉に驚いて、龍葉は俯きがちだった顔を上げる。

「あら?違ったかしら。この間緋勇さんがここに来た時、如月君何だか怒ってたみたいだったから私てっきり…」

ねぇ、と朱日はちらりと如月を見るが、如月は渋面を作って顔を背ける。

「別に怒ってなんか…」
「あら、随分恐い顔してたじゃない」
「…何で翡翠くんが怒るのぉ…?」
「だから怒ってないって言ってるだろう…て、何隠れてるんだい?」

龍葉のおずおずとした声に如月は背後を振り返るが、龍葉は先程までは前方にいた筈だとその行動を訝ると、案の定気不味そうに目を逸らしてきた。

「べ、別に隠れてなんか〜…」
「じゃあどうしてそんな所に…」

言い掛けて如月は、浮かんだ思い当たる節にはっとする。
まさかまだこの間の嫉妬なんてモノを引き摺っているのだろうか。
尚も背中から離れようとしない龍葉に呆れていると、朱日が苦笑する気配がした。

「緋勇さんて人見知りするタイプなのね」

この龍葉の扱いに困る如月にしてみれば上手いフォローだが、それを聞き留めた雨紋はばっさり否定してしまう。

「龍葉サンが人見知りぃ?そりゃねぇよ朱日サン。寧ろもうちょっと緊張して欲しいくらいなのによ」
「うっ…」
「雨紋…」

空気を読まない後輩に如月は思わず額を押さえる。

「そ、そう…。じゃあ私何か緋勇さんに失礼な事しちゃったかしら…」

すると当然朱日は困惑した様子を見せるが、龍葉ははっとすると慌ててそれを否定する。

「っそんな事ない…!違うのぉ橘さん…わたしが悪いのぉ…!わたしが勝手に橘さんに…その〜…」
「え?」

勢いで如月の背から出たものの、龍葉はどうしたものか、もどかしそうに言葉を探して唸るが、一つ頭を振ると遂に意を決して頭を下げた。

「ごめんなさい…!わたし橘さんにヤキモチ妬いてたのぉ!」
「………えっ?!」

朱日と、如月もぎょっとする。

「…や、ヤキモチって…まさか私と如月君に…?」
「龍葉…」

まさか言ってしまうとは、と如月は溜息と共に額を押さえる。
もはや仲間内で知らぬ者はいないが、如月がこの厄介な問題に骨を折られている事を、一般人の数少ない友人である朱日にまでは知られたくなかった。龍葉と無関係だからこそ、彼女の影を知らず普通に付き合える朱日にだけは。

「だ、だから…失礼だったなぁって…この間〜……。だから悪いのはわたしでぇ…何だか橘さんと顔会わせ辛くて…」

頭を上げた龍葉は胸の前でつんつんと落ち着きなく指を遊ばせ、およそ彼女らしくない弱気な態度だ。どうやら余程反省しているらしいが、如月にはそれが嫉妬と、それに伴うあの姿を現さなくなった半月間の傷の深さを表しているようで、何とも言えない微妙な気分になる。
対して朱日は反応に困ったように、はぁ、とぽかんとした顔で龍葉の懺悔を聞いている。

「だから何て言うか〜…そのぉ……みっともなくてごめんなさい…!」

もう自分の事で必死で、当人達の困惑も気付かない龍葉はもう一度大きく頭を下げて締め括った。
まさかこんな事になるとは思わず、軽い気持ちで話し掛けた朱日はすっかり困り果ててしまったが、取り敢えず笑みを作ると屈んで龍葉の顔を覗き込んだ。

「ええと…緋勇さん、とにかく頭を上げて?事情は分かったから、もういいのよ。私は気にしてないから」
「でもぉ…」
「それに折角うちの文化祭に来てくれたんですもの。そんな顔しないで楽しんでいって。ね?」

朱日はまるで子供をあやすような口振りだが、それで龍葉は顔を上げると、どこか照れたように微笑した。

「橘さん…優しいんだねぇ…。ありがとぉ、ごめんねぇ」
「う、ううん」

朱日は首を振ると、どうにかまとまったかな、とそっと溜息を吐く。

「…さぁ龍葉、もういいだろう。雨紋達も待ってるんだから、色んな所を回ってくるといい」
「翡翠くん…」

朱日に妙な気を遣わせてしまった事を申し訳なく思う如月は、早く場を仕切り直そうと龍葉の肩を叩いて促すと、何事かと見物を決め込んでいる雨紋とアランに目配せした。

「それに僕と橘さんは役目もあるし、余り君達の相手ばかりしている訳にはいかないからね」
「あ、そっかぁ…そうだねぇ」
「よし!じゃあ行こうゼ龍葉サン。オレ様ちっとばかり腹減ったしよ、ナニか食おうゼ!」

雨紋は今度は正確にサインを読み取ってくれたらしく、鼓舞する様に龍葉の背を叩く。

「ボクタコ焼き食べたいネ!もちろんライトのオゴーリネ!」
「なっ?!オイ!後輩に金出させる気かヨ?!」
「ライトはladyに払わせるつもりデースか?マダマーダネ」
「お前が払えばいいだろアラン!てか自分のモンは自分で出せ!」
「Oh〜…ライトは心が狭いネ。それじゃあモテないデース」
「龍葉サンならともかくお前にモテても嬉しかねぇヨ!」

アランも追従し、一気に賑やかになる場に如月は安堵する。見れば龍葉と朱日もいつの間にか楽しげに笑い声を上げていて、取り敢えずは落ち着いた事に如月は一層胸を撫で下ろした。

「それじゃぁたこ焼き食べに行こっかぁ〜」
「おう!じゃあ如月サン、また帰り寄るからよ。朱日サンとガンバれよな!」
「女の子一杯getしてヒスーイにも分けてあげるネ!」
「もぉ!アランくん自重〜!それじゃぁ翡翠くん、橘さん、行って来るねぇ」

ひとしきり笑って落ち着くと、龍葉達は勧めに従って他を回る為に改めて如月に向き直ると、じゃあ、と手を挙げる。

「ああ、いってらっしゃい。…もう一度言うけど、くれぐれも騒ぎを起こすんじゃないよ。雨紋、二人を頼んだぞ」
「オイオイ、だからオレ様は後輩だって…」
「三人の中じゃお前が一番まともだ」
「たくっ…仕方ねぇなぁ…」
「エヘヘぇ、よろしくぅ雷人くん」
「HAHAHA!ライトの人徳ネ〜!」
「…ほんと頼むゼ、センパイ方よぉ…」

そうして銘々楽しげに三年四組を後にして行く背を如月は苦笑気味に朱日と見送るが、暫く行った所で龍葉が何やら立ち止まると、くるりとこちらを振り向いて駆け戻って来た。

「翡翠く〜ん!」
「龍葉?どうしたんだい?何か忘れ物かい?」

如月は目を丸くして再び龍葉を迎えると、首を傾げる。

「うん〜…忘れ物っていうかぁ………これぇ!」

龍葉は肩に掛けていた鞄をまさぐると、中から大きめの包みを取り出して如月に手渡す。

「これって…」

淡い色のその袋に結われた緑の大きいリボンの結い目には、二つ折りの小さなメッセージカードがぶら下がっていて、中を開くと”HAPPY BIRTHDAY♡"と手描きのメッセージが描かれていた。

「18歳のお誕生日おめでとぉ!」
「龍葉…」
「エヘヘぇ、危うく今日のメインイベントを忘れちゃう所だったよぉ。でも本当はもっとゆっくり渡したかったんだけどねぇ」

他人の事なのに、相変わらず自分の事のように嬉しそうに満面の笑みを浮かべる龍葉に如月は苦笑する。

「あとねぇ、エヘヘぇ……翡翠くん」
「ん?」
「生まれて来てくれてありがとぉ」
「……―――」

思えば他人からこんな風に誕生日を祝ってもらうのは今年が初めてかもしれなかった。如月にとっていつもなら何でも無い、ただ一つ歳を重ねるだけのこの日が、今年はいやに照れ臭い。

「――なっ何を…大袈裟なっ…!」

そんな意表を突く言祝ぎに如月は動揺するが、龍葉はあれぇ、と不思議そうな顔で首を捻る。

「葵ちゃんも驚いてたしぃ…やっぱりうちだけなのかなぁ…?」
「な、何が…」
「あのねぇ、うちはねぇ、誕生日は歳を重ねた事だけじゃなくてぇ、生まれた日だって事もお祝いする決まりなのぉ。生まれて来てくれたから今こうして一緒にいられるんだよぉって〜」
「そ…そう…。…じゃあ…ありがとう……」

如月は消え入りそうな声でどうにかそれだけを返すと、後は顔を背けてしまう。
良い家族なのだろう。そうは思うが、聞き慣れない人間にしてみれば気恥ずかしい事この上ない。葵が驚く気持ちもよく分かるというものだ。

「?翡翠くん?」
「何でも無い。…雨紋達が待ってるから、早く行くといい」
「う、うん〜…。それじゃぁ行くねぇ」

急にそっけなくなったような気がする如月に龍葉は怪訝そうにしながらも、後で感想聞かせてね、と言い置くと、遠くで待つ雨紋達の所へ走って行った。

「………」
「………」
「………」
「………顔、真っ赤よ」
「っ……!」

今度こそ三人を見送ってから、朱日はまだそっぽを向いている如月にぽそっと呟くと、一息吐いて苦笑する。

「まぁ、あんな風に言われたらそうなるのも分からないでもないけど」
「…全くだ…。本当に龍葉は…」
「でも、緋勇さんて何だか変わった子ね」

まだ頬を染めて参った様子の如月を横目に、朱日はふふ、と微笑む。

「そこら辺にいるごく普通の女の子に見えるのに、今時珍しいくらい素直で正直だわ」
「あれはバカ正直って言うんだよ…」
「…そうかもしれないわね。でも、私達が見習うべき美点だわ…」
「橘さん…」
「私達も緋勇さんみたいにもう少し素直だったら…」

朱日は少し寂し気に視線を伏せるがそれ以上は言わず、すぐいつものようにキリッとした表情に戻ると、如月の手の中の包みをまじまじと見た。

「ところで朝からやたら女子が如月君に何か渡してると思ったら、誕生日だったのね」
「え?あ、ああ…」
「でも、素直に受け取ったのはこの一個だけね?」
「…!」

王蘭の生徒だけでなく、外部の生徒まで如月に何かを渡す女子を朱日は朝から幾度か見掛けていたが、見る限り全てやんわりとではあるが断っていたようだった。
それを指摘され、如月は狼狽える。

「そ、そりゃあ見ず知らずの人からのプレゼントなんて普通受け取らないだろう」
「同じクラスの子もいたみたいだけど?」
「で、でも友人じゃない。龍葉は友人だ。友人からのプレゼントは受け取って普通だろう?」
「……まぁ、それもそうね」

別に龍葉だから特別だとかそういった訳ではないのに、何故か必至に弁解している自分に疑問を感じながらも、如月はそれで朱日を納得させる。
しかし次に朱日が関心を持つのはプレゼントの方で、それで、と如月の手許を再び覗き込んで来る。

「プレゼント、何かしらね?開けないの?感想言わなきゃ駄目なんでしょう?」
「あ、ああ、そうだった…」

看病をして貰った時から何となく感じてはいたが、どうやら朱日は興味がある対象には詮索好きになるらしい。如月は少々呆れつつ、リボンを解くと袋の中を朱日と一緒に覗き込んだ。

「クッキーと…箱ね」
「ああ、何だろう?」

中には更にラッピングされた箱と、手作りと思われるクッキーが入っていた。
如月は箱を取り出そうと手を入れるが、その最中にクッキーが亀の形をしている事に気付き僅かに青筋を浮かべる。だが最早突っ込む気は起きず気付かない振りをするとそのまま箱を取り出し、包装紙を剥がすと上蓋を開けた。

「…これは……招き猫?」
「…の貯金箱ね」

中から現れたのは掌サイズの可愛い招き猫だった。陶器で出来たそれは、後頭部に小さな長方形の穴が開いている。

「商売繁盛って事ね。如月君にぴったりじゃない」
「…龍葉にしてはまともだな」

常人とは違う感性を持つ龍葉にしては普通過ぎて、逆に警戒心を抱いてしまうのを如月は否めない。

「…あら?この小判ロケットになってない?」
「え?」

すると招き猫の"千万両"と書かれた小判に着目した朱日が、横に小さな出っ張りを見付け如月に示す。見るとその小判だけは陶器ではなくゴールド製で、確かにロケットのように開きそうな線もサイドに入っている。しかしそこでようやっと嫌な予感がした如月は、押すのを躊躇うとそのままそっと箱に戻そうとする。だが朱日はすかさずそれを止めると、怪訝そうな顔で如月をねめつけた。

「ちょっと、開いてみないの?」
「いい」
「どうして?」
「嫌な予感がする…」
「嫌な予感って…。普通に絵か何か入ってるだけじゃないの?」
「橘さんは龍葉の性格を知らないから…」
「何よそれ。まさか予め緋勇さんの写真でも入ってるっていうの?」

まだそれならマシかもしれない。いや、せめてそうであって欲しい。しかしいつもその斜め上をいくのが緋勇龍葉という人間だ。
ぐるぐると思考を巡らせ、煮え切らない態度の如月に痺れを切らした朱日は、奪い取りまではしないものの、横から手を出してロケットを開いてしまった。

「あ…!」
「……………何よ、ただのツーショットじゃない」

開けて暫し、ロケットの中身を朱日は凝視するが、そこには何の変哲も無い笑顔の龍葉と澄ました如月のツーショット写真が入っているだけだった。

「よっぽど何か変な物でも入ってるのかと思えば…。可愛いものじゃない」

朱日はやれやれと苦笑すると、ロケットをパチリと閉じる。やはり何だかんだ言って仲が良いのだろうと思うと微笑ましい。
しかしそれに反して如月は青冷め、何やらぷるぷると震え始めるのに気付き、朱日は如月の顔を覗き込む。

「如月君?」
「……ない」
「え?」
「覚えが…ない…」
「?何が?」
「僕は…こんな写真撮った覚えは無い…!」
「…えっ?!」

怒気を含む如月の申告に驚き、朱日は慌ててロケットを開くと、もう一度良く写真を検分する。

「…た、確かに影が少し不自然だわ…。これ…もしかして合成…?」

パッと見では分からないが、そうだと意識すれば影や距離の不自然さからあからさまに合成写真だと分かる。きっと彼女なりの冗談なのだろうとは思うが、あの如月をここまで追い詰めるだけの執念を思うと薄ら恐ろしくなる。

「だから言っただろう!?龍葉はいつもロクな事をしないんだ…!」

如月は忌々しく招き猫を握り潰しそうな勢いで言うと、乱暴に箱に押し戻す。その弾みで箱の底に貼り付いてたらしい紙切れが舞い、それも乱暴に掴むと表に返す。そこに書かれたメッセージは。
"守銭亀(笑)の翡翠くんへ。愛と笑いをこめてv 龍葉"

「っ…!!」

朱日はブチッと何かが切れる音を聞いた気がした。



「そっか、如月サン誕生日なのか。後で何か持ってくか」

校庭の屋台でハフハフと白い息を吐いてたこ焼きを食べながら、で、と雨紋は龍葉を面白そうに見る。アランは自分がたこ焼きを希望したにも関わらず、たこ焼きそっちのけで手当り次第に女の子をナンパしていた。

「龍葉サンは何あげたんだ?」
「エヘヘぇ、ウケ狙いで翡翠くんが笑ってくれそうな物を少々〜」
「ウケ狙い〜?そんなモン如月サンに通じンのかよ…」
「雷人くん!わたしの大前提としてぇ、翡翠くんが楽しいと思ってくれる事をする!まずこれがある訳なのぉ」

龍葉は力説し、爪楊枝をびしっと雨紋に向ける。

「だからぁ、何でもいいからまず翡翠くんに笑って貰おうと思ってるのぉ!」
「ほぉ…」
「その為ならわたしは多少スベるのも厭わない覚悟な訳でぇ、だから例え通じても通じなくてもぉ、わたしは翡翠くんが心から楽しんでくれる日が来るまでは楽しいを追求しなきゃいけないのぉ!」

一気に捲し立てるなんて慣れない事をし、肩で息をする龍葉に雨紋は苦笑すると、落ち着かせるようにポンポンと龍葉の頭を叩く。

「分かった分かった。全く龍葉サンのエネルギーには毎度の事ながら感心するゼ。如月サンは幸せモンだな」
「ほんとぉ?!そう思う〜?」
「ああ。…ま、オレ様ならゴメンだけどな」
「え〜!どぉいう意味ぃ?!雷人くん!」
「ハハっ!」
「二人だけで何笑ってるデースか?ボクも混ぜるネ!」

如月にちゃんとプレゼントを渡せ、正直に告白した事で朱日への胸のつかえも取れた龍葉は、再び如月のクラスに戻った時の恐怖も知らず、それまでは王蘭学院の文化祭を思いっきり満喫したのであった。







…終わっていいですか?
如月の誕生日は書く予定なかったから、全く白紙の状態で始めたらえらい事になった…。疲れたんだぜ…orz
え〜と、なんとなく橘さんに嫉妬したままで、そっちは未解決って嫌やなぁと思って書いた訳です。…解決になったかは謎ですがね(汗)

それにしても龍葉サンはこれでいいのだろうか…?如月のツン度も上がって来てるような…。
でもこの後はわたくしめにとっては書き易いシリアスちっくな方向に向かうので、こんな賑やかしは暫く無いだろうな。龍葉もおバカスイッチを切り替えてもらいますゼ。

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【2008/11/04 02:43 】 | 女主×如小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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