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【2026/08/15 10:49 】 |
緋勇龍葉と結論
傾向:シリアスの一歩手前…ではない。
※「緋勇龍葉の嫉妬」の続きです。もういっぱいいっぱい。



かりかりとペンの音だけが聞こえる静かな教室。そこに注ぐ秋の暖かな陽射しは、微睡みへとゆるやかに誘う布団の様に柔らかく、朗々と響く講義も右から左へと耳を抜けて、そうと意識しなければまるで子守唄にしか聞こえない。それでもここは名門進学校。受験を控えた三年の四組の教室では、誰一人眠る事なく黒板とノートに視線を往復させていた。
だがその中の一人、出席状況だけを除けば成績優秀でありながらも、早々に進学しない事を決めた如月翡翠だけは授業等まるで聞いておらず、頬杖をつき、眉間に浅く皺を寄せて窓の外を見ていた。今彼の頭にあるのは自身を取り巻く現状について。一体これをどう乗り越えるべきなのか。
如月は手にしていた赤ペンでトン、と机を叩いた。
そもそも如月は、何故自分がこんな目に遭わねばならないのかが分からなかった。龍葉には勝手に好かれて勝手に悋気を起こされて、挙げ句勝手に姿を消されて。そしてその級友達は彼女大事と言外でそれを責め、落ち着ける筈の我が家に在りながらまるで敵地にでもいるような居心地の悪さを強いて、それだけでは飽き足らないのか、お節介も甚だしくケジメを着けろ等と言う。それ以外にも、それに気取られる余り朱日を怒らせてしまうし、本当にまるで良い事がない。
一体朱日以外の事のどこに自分に非があるというのだろうか。何も悪い事をしていないのに一人だけ悪者扱いされているような気がする。果たしてこんな理不尽は許されるのか。

「――…ぎ……らぎ……如月!」
「…!」

その時、思考を遮られるかのように、不意にひゅっと何かがこちらに飛んでくる気配に気付いて、如月は思わず条件反射で手を出すと易々とそれを捕らえる。そうして掌に収まった滑らかな棒を見る。

「…チョーク?」

ぽつりと呟くと、周りから一斉におお、と感嘆の声が上がり、そこでようやく彼は授業中であった事を思い出した。

「すげー!余所見しながらあのチョークを止めやがった」
「やっぱり運動神経良いんだねー!かっこいー」
「やっぱ只者じゃねーな如月は」

ただの高校生が余所見をしながらチョークをキャッチという離れ業に、クラスメイトから口々に囃されて如月はしまった、と冷や汗を流す。

「如月…お前っ……」

そして次に飛んで来たのは、攻撃を止められた怒りにプルプルと声を震わせる中年の教師の叱責。

「授業を聞く気がないならないで、せめて静かにしていろ!それが出来ないなら出て行け!」

かなり怒っているようで、教師はびしっと廊下を指差して退室を促す。
どうやらいつの間にか苛立ちを表すかの如く、ペンでトントントンと机を叩いていたらしく、握られた赤ペンのインクがノートと机を跨いで無数に付いていた。

「…すみません」

これは自分に非があるので素直に謝ると、如月は背筋を伸ばして座り直し、授業を聞く意思がある事を示す。

「全く…出席するようになったかと思えば…」

教師はぶつぶつ言いながらも仕切り直すと授業を再開し、教室には再び静かな授業風景が戻る。しかし所々からひそひそと聞こえる先程の離れ業への関心に、如月はやってしまったと溜息を吐いた。
周りにはマグレだと言えば通じるだろうが、これであの教師にも目を付けられたかもしれないと思うと、また一つ増えた嫌な目に一層憂鬱になる。
思えば龍葉と出会ってからは、度々剥がれがちになってしまう、如月にとって理想である《無》の心境。何事にも目立たず囚われず、水紋一つない澄んだ泉のような静寂な己を目指している筈なのに、気付けばこうして無駄に目立ち、苛立ちに心を囚われている。
未熟というべきか、はたまた他の仲間達が総じてそうであるように、彼女に良くも悪くも影響を受けているからなのか。
全くつくづく厄介な存在である。
やはり授業を聞かず物思いに耽る如月は、その後度々教師に注意されながら一日すっきりせぬまま放課後を迎えた。


「如月君、今日何だか変よ。本当に大丈夫?」

帰りたくても叶わず、内心渋々文化祭の準備に追われる如月は、教室で朱日と有志達で買い出しの内容や具体的な人員の回し方等を詰めながら、やはり心此処に在らずどこかぼんやりとしていた。そんな様子であるから、相変わらず怒ったままだった朱日が、いい加減呆れるように如月に声を掛けてきた。

「ああ…いや、別に…」

しかし歯切れ悪く答えてしまい、朱日は益々怪訝とした様子で詰め寄ろうとする。が、その時一人の男子が教室の入口から如月を呼んでそれを遮った。

「おーい如月、校門にお客さん来てるぜ」
「…客?」

如月は不審そうにプリントから顔を上げ、その男子を見る。

「えーと…確か緋勇って言えば分かるってさ」
「…!」

途端如月は目を見開き耳を疑う。
今確かに緋勇と言ったか。

「見たことない制服だったけど、どこの子かな?かなり可愛かったぜ。お前の彼女?」
「っ…!そんなのじゃない!!」

語気荒くいきなりガタンっと大きな音を出して立ち上がる如月に、周りは驚いて目を丸くする。

「あ…悪ぃ…てっきり…」

呆気に取られながら呼んだ男子が謝ると、如月ははっとして罰悪そうに顔を背けた。

「…あ、その…すまない…」
「い、いや…、とにかく早く行ってやれよ?かなり目立ってるからめちゃくちゃ見られてるぞ、あの子」
「ああ…ありがとう…」

言いつつ、足は中々動こうとしない。

「…如月?」

いきなり学校まで来られた事への動揺と、沸き上がってくる今更何をしに来た、という微かな怒り。
立ち上がった姿勢のまま沈黙してしまう如月だが、朱日はそのしかめた表情に今朝からのと同じ色を見つけ、ああ、と得心がいったように一人頷くと、側のプリントやらが入った段ボールを探り、短冊サイズの紙束を取り出した。

「如月君。これ、文化祭の入場チケット」
「え…?」

そのチケットの束から一枚抜いて差し出すと、如月は目を丸くして朱日とチケットを交互に見る。

「印刷ミスで遅くなっちゃったけど、今日やっと出来たのよ。緋勇さんにあげたら?」
「龍葉に?」
「何があったか知らないけど、あげたらきっと喜んでくれるんじゃない?」

朱日は龍葉とは一度しか面識がないが、あの日、去り際に見せたひどく寂しそうな顔がやたら印象に残っていた。
如月は意外と校外に友人が多く、龍葉もその一人なのだろうが、彼女の方は明らかにそうではないと分かる。それにこの表情を見るに、もしかしたら如月もそれだけではないのかもしれない。最も本人がそれに気付いているのかは謎だが。

「………」
「もう、ほら早く行ってあげないと」

朱日は受け取るのを躊躇している如月にチケットを押し付けて急かす。それでようやく二、三歩進んだ如月は、振り返ると照れ臭そうに朱日に礼を言った。

「…ありがとう橘さん。それから…今朝はすまなかった」
「いいわよもう。あ、でもまだ仕事はあるんだからそのまま帰らないでね」
「分かってる。それじゃあ少し失礼するよ」

そう言って如月は今度こそ教室を出て行った。


校舎を出て白い石畳を行くと、やがてその校門は見えてくる。行き交う濃い青のブレザーの中にその白いセーラー服はやたらと目立ち、好奇の目に晒されながら門柱に凭れ、どこか所在なく一人佇む少女はすぐに視界に入ってきた。

「どこの子だ?可愛いじゃん」
「誰か待ってんのかな?」
「お前声掛けてみろよ」
「お前が行けよ」

校門を通り過ぎる男子の大半がそんな事を言って如月の横を抜けていく。半月以上振りに見るその姿に僅かに緊張を覚えていた如月だが、その評に足は止まり、どこか他人事のように龍葉を見た。

「そうか、可愛いのか…」

確か報せに来た男子もそう評していた。
彼女は普段の言動を見ているとその風変わりな性格ばかりに目が行って、容姿までは中々注意がいかないが、こうして改めて見直してみると、黙っていればこんな風に注目されるくらいには美少女なのだと気付き、何だか不思議な気分になる。

「…中身を知らないって幸せな事なんだな」

一転暢気に呟いてみると、待ちくたびれたように校門の内側に視線を向けた龍葉と目が合ってしまい、如月は何故かギクッとする。

「―――あ…翡翠くん」

対する龍葉は待ち人の登場にほっとしたように顔を綻ばせると、両手を広げて如月の元へ駆けて来た。

「翡翠く~ん!」
「っ…?!」

公衆の面前にも関わらずいつものように抱き付こうとする龍葉に、寸での所で如月はその頭を捕らえ押し返す事でそれを阻止した。

「何っ…してるんだ…君はっ…!」
「う~…久し振りで嬉しくてぇ…」

ぐいぐい頭を押し返されながらも龍葉は照れたようにヘラっと笑うが、如月はその様子に違和感を覚え眉を潜める。
確か彼女は落ち込んでいるのではなかったか。
如月は手を放して不審そうに窺った。

「…君、何しに来たんだい?」
「え~?翡翠くんに会いにだけどぉ?あ、学校まで来ちゃったのは翡翠くんが留守だったからで~…ごめんねぇ?」
「そうじゃくて、わざわざ学校まで来たからには何かあるんだろう?」

これだけ意表を突かれ、今まで振り回されたのだ。そうでなくては納得出来ない。
しかし龍葉はきょろきょろ周りを見回すと、声を潜めて目配せをする。

「それよりぃ、ここじゃ目立つからどこか移動しない~?」

言われて如月は自分達がやたら衆目を集めている事に気付く。

「やだっ、如月先輩って彼女いたんだ」
「え~ショック!」
「くそ~、やっぱ可愛い子は顔が良い奴に取られちまうんだな」

学校の内外問わず女生徒に人気があるだけに、如月と随分親しげにする女子がいきなり現れれば注目を集めない訳がなく、今や校門の前には軽く遠巻きに人だかりが出来ている。その光景に如月は煩わしげに溜息を吐くと、龍葉を校門の外へ促した。

「近くに公園がある。そこでいいかい?」
「うん~、ごめんねぇ」
「悪いと思うならこういう事は今後控えてくれ」
「エへへぇ、は~い」

やはり悪びれる様子もなく逆に嬉しげに笑う龍葉が、如月にはどうも理解出来なかった。


二人は学校を出てすぐ角の公園まで行き、遊ぶ子供達を横目に空いているベンチに腰掛ける。

「それにしてもぉ、翡翠くんってやっぱりモテるんだね~。わたしびっくりだよぉ」
「そんな事より、用件は何だい?僕はまだこの後もやる事があるんだが」

他愛のない話をしようとする龍葉を素早く遮り、如月は早く本題に入るよう促す。
それに龍葉は少々不貞腐れるように口を尖らせると、恨めしそうに呟いた。

「もぅ…折角久々に会えたのに~…」
「折角って…。僕からならともかく、君が勝手に姿を見せなくなったから会わなかっただけだろう。懐かしまなきゃいけない謂われなんてないな」
「それは~…そのぉ…」
「…姿を見せなかったのは何かあったからかい?」

龍葉のペースに乗せられまいと自ら確信に触れてみると、龍葉は一瞬表情を固くさせ、次いでじっ、と真顔でこちらを見てき、如月は僅かにたじろぐ。

「…龍葉?」
「………翡翠くん」
「…な、何だい…?」
「もしかして…心配してくれたのぉ?」
「………――」
「………?」
「―………はぁ?」

深刻と思いきや、一転底抜けに暢気な声音に如月は肩透かしを喰らい、いい加減ぴくぴくと額に青筋を浮かべると龍葉を横目で睨む。

「…君は人を馬鹿にしてるのか?」

その如月の多分に険を含んだ視線にびくっと肩を竦めると、龍葉は気弱な声を出す。

「あぅ…違……」
「全く…!本っ当に馬鹿馬鹿しい!用がないなら僕はもう戻る!」

もはや龍葉の全てに苛立ちを感じる如月は吐き捨てるように言うと、ポケットの中のチケットをくしゃっと握り締め、乱暴に立ち上がりそのまま学校へ戻ろうとする。

「あ――待って…翡翠くんっ!」

しかし龍葉は腕を伸ばして如月の腕を掴むとぐいっと引き寄せ、その勢いで自身もベンチから立ち上がると背中から如月に抱き付いてきた。

「ごめん…ごめんなさい…。そんなつもりじゃなかったのぉ…」
「………」
「でも…翡翠くんだって、何か話があるんじゃないのぉ…?」
「…話?僕に話なんて…」

言い掛けて如月ははっ、と言葉を途切れさせる。
――もう引導渡してやればいいんじゃねぇのか?
再び脳裏に甦る京一の言葉に、如月は背筋に冷たい物が流れるのを感じる。しかしその反面、何故龍葉が何の脈絡もなくそんな事を言い出したのかが気に掛かった。まるで何か裁きでも待つかのように固い声と回された腕に籠る力。
――まさか、知っているのか?
そう思わざるをえない龍葉の様子に、如月は龍葉の手首を掴んで解くと、軽く見開いた目のまま振り返った。

「…―――」

不安げに揺れる黒曜石の瞳。しかしそれでも如月の逡巡など当に見透かしているかのように、それは真っ直ぐ強く射られていた。

「――龍葉…君……」

その真摯で神妙は面差しに、如月が抱いた疑問は確信に変わる。
龍葉は真神の誰か――可能性があるなら葵か小牧だろう――に聞いたのか、どのような手段かでそれを知って、その上で答えを待っているのではないか。まるで試すかのように、賭けるかのように。
そしてきっと、告げる言葉次第ではその覚悟をも決めている。
それは打算、というよりは配慮に近いのかもしれない。普段呆れるくらいに強引でマイペースなくせに、妙な所で相手の顔色を窺い臆病になる彼女らしい厄介な気遣い。
つまりは龍葉が生きるも死ぬも如月次第という事か。
何の覚悟もないままいきなり委ねられた生殺与奪の権に、如月は目眩を起こしそうになる。これは一体何の嫌がらせだろう、と。
そうして同時に気付く。仲間としてではなく個人として、少なからず龍葉を大切に想う自分の気持ちに。それは愛情か友情か、はたまた庇護欲か。まだ判然としない気持ちだが、だからこそ今まで姿を現さなかった事を苛立たしくも思ったのだろう、と。そしてそんな存在だからこそ、保身の為の嘘等で傷付けたくない。
ようやく思い至った如月は急に諦めたように大きな溜息を吐くと、掴んでいた手首を放し、ふ、と苦笑した。
ならば伝えるべき事は一つだ。

「…君の好きなようにしたらいい」
「……え?」
「会いに来るも来ないも君の自由だ。どうせ他人が何を言っても君は心から納得出来ないと次には進めない人だろうから」
「翡翠…くん…?」
「ただ、僕にこれ以上迷惑だけはかけないでくれよな」

我ながらどこか素直ではない言い様だが、それでも龍葉は目をまん丸くして頬をほんのり染めると、おずおずと遠慮がちに袖口の辺りを掴んできた。

「そ、それでいいのぉ…?翡翠くん…本当にそれで…?わたしちゃんと…」
「僕の話はこれだけだが、君は一体何の話をしてるんだい?」
「っ…」

先を遮って如月がとぼけてみせると、龍葉はぐっと口をつぐみ暫し俯いた後、こしっと目尻を拭うと顔を上げて破顔した。

「そんな事言って…どうなっても知らないんだからぁ」
「生憎、心配しなくてもどうにもならないと思うよ」
「もぅ!またそんな事言う~!」

そう言って拗ねてぷいとそっぽを向いた龍葉の仕種は、何やら可笑しくも懐かしく、如月はつい久々に何の気負いもなしに笑ってしまった。
龍葉はそんな如月に更に頬を膨らますが、こちらも堪えきれないように吹き出すと、心底幸せそうに満面の笑みを浮かべた。

「エヘヘぇ、やっぱりわたしぃ、翡翠くんとこうしてる時間が大好きみた~い」
「ヘラヘラしない、って言ってるだろう?」
「だってなんだかすごぉく幸せなんだも~ん」

ジャレつくように腕に絡まろうとする龍葉の腕を避けながら、如月はやれやれとだらしのない笑顔を見守る。
もう脳内に京一の言葉は甦らない。仕方ないと思ってしまったその瞬間、もうとことんまで逃げきるしかないのだと覚悟を決めたから。そして案外、自分はこの状況を結構楽しんでいるのかもしれない。

「翡翠くんだぁい好き~」

それでも、彼女のようにあっさりと想いを口にとは到底出来ないけれど。
如月は着実に龍葉のペースに巻き込まれつつある事を自覚しながらも、ポケットに手を入れ朱日から渡されたチケットを掴むと苦笑する。それは先程握り締めた所為で酷い皺になっていたが、これ以上朱日の気遣いを無駄にするのは申し訳ないという思いと、どうせこれを渡さずとも当日龍葉は何らかの形で自身の前に現れるだろうという、確信を抱ける憶測もあって、仕方なしにチケットを取り出すと龍葉の目の前に掲げた。

「…あんまり調子に乗っていると、これあげないよ」
「え~?」

龍葉はいきなり目の前に出されたチケットを目をぱちくりして見つめるとあ、と声を上げる。

「25日…翡翠くんの誕生日~!」
「ちょっと皺になってるけど…、一枚で三人まで入れるから」
「翡翠くん…それって…」

如月は少し照れ臭そうに視線を外すと、チケットを龍葉に押し付けた。

「…君、何か騒いでたろう?でもご覧の通りその日は忙しいんだ。だから…」
「行ってもいいのぉ?!」

最後まで聞かず龍葉はチケットを如月の手から奪い取ると、声を弾ませ瞳を輝かせる。

「やったぁ~!ありがと~」
「言っておくけど余り相手は出来ないよ。それでもいいなら誰か誘っておいで」
「うん~絶対行く~!」

龍葉はにこにこと嬉しそうにチケットを掲げながらくるりと一回転する。

「…龍葉?ただの一学校の文化祭がそんなに楽しみかい?」

そのはしゃぎように如月が呆れて尋ねると、龍葉はだってぇ、と緩む口許をチケットで隠すと上目使いに見上げてくる。

「他ならぬ翡翠くんが招待してくれたんだよぉ?それだけでもうその文化祭はわたしにとっては特別になるのぉ。しかも誕生日でぇ、忙しいのにその日を少しでもわたしに割いてくれるんだもん~。嬉しくない訳がないよぉ」
「大袈裟だな…」
「エヘヘぇ。わたしは嬉しいんだからいいの~」

龍葉はマイペースを崩さず、しわくちゃのチケットを大事そうにベンチに置いていた鞄にしまうと、それを持ってくるっと身体ごと改めて如月に向き直った。

「この後まだあるんだよねぇ?」
「ん?…ああ」
「じゃぁ次に会えるのは文化祭だねぇ」
「そうだね」
「誕生日プレゼント持って絶対会いに行くからぁ」
「好きにすればいい」
「うん!」

気付けばもう笑顔しか浮かべていない龍葉は、いつものようにヘラヘラとじゃあ、と手を上げる。

「今日はいきなりごめんねぇ。でも来て良かったぁ、ありがとぉ。翡翠くんが頑張った文化祭楽しみにしてるからぁ、この後も頑張ってね〜」
「ああ、ありがとう。君も気を付けて帰るんだよ」
「は〜い」

子供のように元気良く返事をして、龍葉は手を振りながら帰って行く。如月はその背を見送りながら、龍葉の向こうに掛かる空がいつの間にか夕陽に裾を染めつつある事に気付き、溜息と共に苦笑する。

「タイミングが悪いな…。貴重な準備時間が台無しだ」

一人呟きつつ、それでもまんざら悪くないと、如月は遠ざかって行く背中に視線を戻し、公園の出口で一旦振り返ってもう一度手を振る龍葉に軽く手を上げて返してやった。

龍葉は時に過剰だが、やはり飾り気のない素直なその言動は煩わしくも好ましく、それ故日常の思考回路を疑ってみれば、今日はふとした隙を突いて意外なしたたかさを見せ冷やりとさせられた。
そんな一筋縄では到底いかない、一言で言い表わすには余りに難解な彼女。それでも如月は幾度となく繰り返した自分なりの、彼女への称賛と揶揄を籠めた言葉を消え行く姿に向かって呟いた。

「全く…本当に厄介だな、君は…―――」

それでもやはり、まんざら悪くはない。







…やっと終わった…(;;´Д`)
この話はあるシーンを書きたかっただけで、終わらせ方を全く考えてなかったのでやたら時間と苦労が掛かりました。
お陰でだらだらとまとまりが無い+いつも以上に妙な文章になってる気がするけど、もう限界ですよ…orz

次はこのシリーズで一番書きたいシーン&話が動く方向にストーリーをもっていきたいんですが、その前に息抜きで何か他を書こうかな。

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【2008/10/14 23:27 】 | 女主×如小説 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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