《恋》というモノはいつも突然訪れる。
一目出会った時、ふいに優しくされた時、そして自覚した時。
この物憂げにナルトを眺める少女の《恋》もまた、例に漏れず突然やって来てその胸を焦がしていた。
――ああ、恋しい人。あなたは今何をしているのだろう?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
あちこちに染み付いた出汁の匂いが今日も香しいラーメン屋。蓬莱寺京一恒例の提案で、いつもの真神五人組はいつものラーメン屋に足を運んでいた。といっても今回は制服ではなく私服で、放課後ではなく夏休みで。暑い中テーブルを取り囲んで、汗を掻きながら皆でラーメンを啜っている。けれどその中の一人、緋勇龍葉だけは麺を掬っていた箸を止めて、代わりに拾い上げたナルトを溜息と共にぼんやりと眺めていた。
「……おい、たっちゃん…?」
先程から変わらないその様子を怪訝そうに窺っていた京一達は、彼女の体調やら伸びる麺やらがいい加減気になって恐る恐る声を掛けた。すると意外にも龍葉はあっさり反応して、ぼーっとした目をしたまま視線を友人達に移した。
「…え〜?…あ…、なぁにぃ?」
「いや、どうしたんだ?ぼーっとナルトなんか眺めて」
「え?えぇと…あ〜…うん〜…ちょっとぉ……」
ぽたっとナルトを麺の上に溢し、龍葉は曖昧に首を二、三度捻る。
「たっちゃん…ひょっとして何か悩みでもあるの?ボク達で良かったら聞くよ?」
いつもの元気がない龍葉が心配になった小牧は、小首を傾げて気遣うように言う。
「そうよ。一人で悩んでないで、話せる事なら遠慮なく話して」
「ああ、抱え込むのはよくない」
葵と醍醐にも同じように言われて、龍葉は慌てて両手を前に出してぶんぶん振って否定する。
「ち、違うよぉ…!そんな深刻な事じゃないからぁ…!」
「じゃあなんだ?へへ、まさか恋の悩みとか言うんじゃないだろうな?」
悪戯を仕掛ける子供のように笑いながら京一が軽口を叩くと、思惑に反して龍葉は言葉に詰まると、しおらしく俯いてぽっと頬を染めた。
「「…………え?」」
まさかの反応に四人の動きが一瞬止まり、次の瞬間各々個性に合った反応を見せる。
「え、そうなの?龍葉」
「えっ?えっ?本当に?!誰?!」
「おいおいマジかよ?!で、誰だ相手は?!」
「む、むぅ…そうくるか…」
身を乗り出しそうな勢いで一斉に言われ、龍葉は髪をくるくる弄ると隠す事なくぽそっと呟いた。
「…如月くん……」
「「…………え?」」
「如月…翡翠くん……」
「「………………」」
龍葉の口から紡がれた、まさか微塵も思いもしなかったその名前に四人はぽかんとなる。
如月翡翠とはついこの間、港区の地下神殿での事件から仲間となったスかした男の名前ではなかったか。それ以前からもよく世話になっている北区の骨董品屋の。
「…きさ…らぎ……」
ようやっと声を出した京一はしかし、その一言で再び黙してしまう。
「…き、如月クンかぁ…。意外だね」
「あら、でも案外お似合いかもしれないわよ。如月君って真面目じゃない?龍葉はマイペースだから良い感じになりそう」
苦笑いする小牧に葵は嬉しそうに手をぽんと叩く。
「本当ぉ葵ちゃん?そう思う〜?」
「ええ。私は応援するわ。頑張ってね龍葉」
「うん〜ありがとぉ」
「そうか、如月か……ん?どうした京一」
何故か感心したように頷く醍醐だが、すぐ隣で頭を抱えて沈黙している京一に気付く。どうも落ち込んでいるらしい様子に小牧はにやりと笑うと、これ幸いと弄りに掛かった。
「あれぇ?急に黙っちゃってどうしたのさ京一。あ、ひょっとしてたっちゃんの事好きだったとか?」
「…違う…そんな訳ねぇ……そんな訳ねぇ筈なのに…」
京一は目元に影を落としながらぶつぶつ呟くと、いきなりがばっと顔を上げて周りも憚らず叫んだ。
「なんでこんなにショックなんだよ!チキショー!!」
京一の心からの叫びに小牧はたじろいて、笑みを引き吊らせる。
「あらら、結構本気だった?」
「京一君たら…」
「はっはっはっ!気付くと同時に失恋か!災難だな京一」
「きょーちくん…」
目尻に涙を浮かべている京一を龍葉がきょとんと見つめると、京一は気不味そうに視線を合わせてくる。
「…たっちゃん、本っ当にアイツの事好きなのか?」
「うん〜…ごめんねぇ」
「アイツなんかのどこがいいんだよ」
少々みっともなく見える京一に呆れつつも、そこは気になる小牧も瞳を輝かせる。
「うんうん、如月クンのどの辺が良かったの?」
「う〜ん…どこが良いっていうよりぃ…」
龍葉は人指し指を口許に当て、上目がちにやや思案して一つ頷くと、にこりと笑った。
「うん。如月くんそのものが好きなんだぁ」
末尾にハートマークでも付いていそうな照らいのない堂々とした告白に、四人はガクッと肩から崩れる。どうやら京一はいよいよ本格的に振られたようだ。
龍葉はほわんと脳裏に浮かぶ如月の澄ました顔に幸せそうに目元を緩ませると、想いを確認するかのように話し出す。
「…如月くんに初めて会った時はぁ、落ち着いてて格好良い人だなぁってくらいにしか思わなかったのぉ」
閑静な住宅街だがどこかの庭に桜があるらしく、風と共に花びらが舞うその古びた店で如月と初めて出会った。それは何でもない出会いだった筈だが、恋をした今となっては不思議と輝いて思える。
「でもねぇ、少しだけどこの間の事件でそれだけじゃない如月くんの顔を知ったらぁ、急にとっても気になるようになったんだぁ…」
龍葉は机に立て肘を着いて顎を乗せ、えへへ、と笑って四人を見る。
「あのねぇ、如月くんって格好付けでしょ〜?」
「は?」
「格好良いじゃなくてぇ格好付け。しかも余裕のある格好付けじゃなくてぇ、余裕のない独りよがりな格好付けなの〜。それってぇ、逆に凄く格好悪いよねぇ」
「お前…本当に好きなのか?」
好きと言いながらも笑顔での容赦ない分析に呆れてしまう京一に龍葉はまぁまぁ、と手をヒラつかせ言葉を繋ぐ。
「でもそのくせ本当は優しいからぁ、わたしは何だか凄く惹かれちゃったんだぁ」
地下神殿で龍葉の頭上の天井が崩れた時、如月は咄嗟に水の力で守ってくれた。あの時水飛沫の合間から見えた顔には余裕ではなく焦りがあって、お礼を言うと安堵したように微かに笑った。それはそれまでの澄ました表情や愛想笑いとも違っていて、この人は冷たいのではなく不器用な人なんだとそこで思った。
それは今考えれば当然の事。だって彼はずっと一人で東京を、そこに住む人々を護って来たのだから。
「あの時他人を…わたし達や絵莉ちゃんを事件に関わらせようとしなかったのも、如月くんなりの優しさだと思うのぉ…。傷つくのは自分一人でいい、知らなくていい、それが使命だ…。そう固くなに心を決めちゃってて、内に籠ってるんだと思うんだぁ…」
龍葉はやるせない溜息と共に天井を見上げる。
「でもきっと本人はそれには気付いてなくて〜、わたしには寂しく思えるけど如月くんには当たり前で…。だからわたしね、思うの」
龍葉は目を伏せがちに微笑むと胸に手を当てる。
「気付かなくてもいいから…無理に変わらなくてもいいから、如月くんにはその当たり前の中で楽しいを見つけて欲しいって。喜び、怒り、哀しみに楽しみ。そんな当たり前の感情を持てる出来事と一杯出会って欲しいの」
助けてくれた時、少しだけ見せてくれたあの笑顔がもっともっと増えるような出来事。それが相手を思いやっての事なら喧嘩でもいい。感情をぶつけあう事で生まれるモノもある。
「だって折角仲間が出来たんだもん。東京を護るのはもう自分一人だけじゃないんだから」
もしこんな事を本人に言ったらどんな顔をするだろうか。
龍葉はふと思う。
「…そして出来るなら、わたしがそれをしてあげたい。一番側で、一緒に楽しい事一杯したいの」
こんな事を言ったら、如月は困ってしまうだろうか。困ったように笑ってくれるだろうか。それとも呆れられ、それどころか怒ってしまうかもしれない。でもそれが彼の、当たり前の中にもいつもと何か違う感情を生み出せたら、龍葉はそれだけで満足だろう。
「…そう。本当に好きなのね、如月君の事」
龍葉の真摯な想いをいつの間にか静かに聞き入っていた葵がしみじみと微笑むと、龍葉は照れ臭そうに笑う。
「きっと余計なお世話だと思うけどね〜」
「でもそういうのってたっちゃんらしくてボクは好きだな。そう思えるのってすごく素敵だと思う」
「ああ、すぐには無理かもしれないが、お前ならきっといつか如月にも届けるさ」
「えへへぇ、ありがとぉ、小牧ちゃん醍醐くん」
しかし醍醐は頷きながらも、呆れたようにちらりと横を窺う。
「さて、後はこいつだな…。京一、いつまで不貞腐れてるんだ」
醍醐に背中を向けるように肘を着いて、好きかもしれない相手に目の前でノロけられた京一は、すっかり機嫌を損ねてそっぽを向いている。
そんな京一に龍葉はどうしたものかと考えあぐねて、取り敢えず謝ってみる。
「きょーちくん、本当にごめんねぇ…。わたし知らなくて〜…」
「………気のせいだ」
「え〜…?」
ぼそりと聞こえた声に龍葉は首を傾げる。
「気のせいだ」
京一はそっぽを向いたままだったが、横目で龍葉の困り顔を罰が悪そうに見ていた。
「たっちゃんは俺の親友だよ。それ以上でも以下でもねぇ。俺はただたっちゃんに先を越されそうで焦っただけだ」
「きょーちくん…」
あの反応はどう見てもそれとは違うが、京一なりの気遣いを感じて、龍葉は申し訳なくも嬉しくなる。
横で聞いていた小牧も嬉しそうに笑うと、立ち上がって労うように京一の肩を叩いた。
「お、たまにはカッコいい事言うじゃん京一っ」
「うるせぇ!俺はいつもカッコいいんだよ!」
京一はその手を振り払うように肩を回すが、目尻には悔し涙が浮かんでいる。
「よしよし、頑張ったご褒美にボクの叉焼をあげよう」
そんな京一に小牧は苦笑しながら、緩くなったラーメンから残っていた叉焼を拾い上げて丼に入れてやる。
「馬鹿にしてんのか?」
京一はまだ半分涙目で小牧を睨むが、その横からまた一枚別の叉焼が入ってきて、更にメンマまで入ってきた。
「私の叉焼もよかったら食べて」
「俺は叉焼を食ってしまったからな、メンマですまんが…」
「美里に醍醐もかよ…つーかメンマって…」
「じゃあわたしはナルトとぉ、あ、叉焼もあげる〜」
「たっちゃんまで…」
龍葉まで便乗し、スープだけだった京一の丼には今や麺と葱以外ほぼ全てのトッピングが揃っている。
「お前らなぁ…」
京一は呆れてそれを見下ろすが、ふと口の端に笑みを浮かべると、叉焼を一枚摘まんで掲げた。
「たくっ…ありがとよ」
そうすれば後はいつもの空気と賑わいが場には戻る。長いのに短い五人一緒の楽しい時間が。
龍葉はそれを心地よく思いながらも、脳裏では如月を案じる。彼にもこんな時間があればいいのに、と。
この手で、あの頑なな心を溶かしてあげたい―――
「ねぇ、どうせなら今から如月クンの所行こーよ!」
全員がラーメンを食べ終えた頃、次の移動場所を相談していると、急に小牧が名案を思い付いたようにぽんと手を叩いた。
「如月くんのとこぉ?」
龍葉はほんのり期待に瞳を輝かせるが、京一はムスっとして露骨に顔をしかめた。
「何でだよ」
「え〜と……そうだ、ほら、醍醐クン足甲の調子が悪いって言ってたでしょ?見て貰おうよ。ね?」
小牧が同意を求めるように醍醐に目配せをすると、醍醐は戸惑いながらも応じてくれる。
「…あっ、ああ、そうだな…」
「葵もいいよねっ?それともどこか行きたいとこある?」
「ふふ、私はいいわよ。落ち着ける所は好きだから」
葵の快諾も受け、最後に小牧は京一を見る。
「四対一。どうする京一」
「お前…さっきの叉焼は何だったんだよ」
京一は溜息混じりに吐き出す。
「あれはもう終わったコトだろっ!男らしくないぞ京一!たっちゃんを見てみなよ」
「へ?」
いきなり小牧に指を差されて龍葉は驚くが、如月の所へ行ける喜びか、口許には僅かにへらっとした笑みが残っている。小牧は声を潜めて京一に詰め寄る。
「あの期待に満ちた顔を京一は無下に扱えるの?」
「お前が勝手に期待持たせたんだろうが」
「京一…」
往生際の悪い京一に小牧は寂し気に目を伏せると瞳を揺らす。
「…どうせなら応援してあげようよ。振り向かせる気がないからさっきあんな事言ったんだろ?」
「………」
そんな風に言われては京一も気不味く、ちらりと龍葉を見ると諦めたように溜息を吐いた。
「たくっ…仕方ねぇな…」
「…!」
それを聞いた途端小牧はぱっと表情を明るくすると龍葉に振り向く。
「京一もいいって!」
「なっ…!いついいって言ったよ!」
先程のしおらしさはどこへやら。小牧の変わりように京一は作為めいた物を感じ抗議の声をあげるが、しかし小牧はけろりと清々しい顔で受け流す。
「いいって言ったも同然だろっ。よし決定!如月クン家へしゅっぱーつ!」
「わーい」
龍葉も意気揚々と立ち上がり、京一に満面の笑みを向けた。
「ありがとぉ、きょーちくん」
「うっ…」
最強のこの笑顔に敵う者などいる筈もなく、京一はついに観念してがくりと頭を下げた。
かくして一行は如月骨董品店へ向かう為、ラーメン屋を後にしたのだった。
東京都北区にあるその店は、相変わらず静かに佇んでいた。コンクリートの家々の合間にぽつんと歴史を感じる木造の外観を残して、そこだけがどこか懐かしく落ち着いた趣を残している。未来へ進化する東京にありながら不変不動で、昔に時を忘れて来たかのような静けさ。
龍葉は古びた看板を見上げて一つ息を吐く。
「そういえば今日が初めてだなぁ…。あの事件以来ここに来るの〜…」
龍葉はしみじみと呟く。同時に如月ともあの事件以来会っていないから、龍葉の胸は僅かな緊張を伴って高鳴っている。
好きになってから初めて会う如月は、どんな風に龍葉の瞳に写るだろうか。
「龍葉、さ、入りましょう」
「うん…」
葵に促されて龍葉は引き戸に手をかけると、ガラリと入り口を開けた。
「―――やぁ、いらっしゃい」
開けるのと同時に涼やかな声が耳に入る。
外の暑さとうって変わって、落ち着いた声と匂い。とくん、と一つ高鳴る胸を抑えて薄暗い店内に目を凝らすと、土間と居間を隔てる縁側に座る如月を見つけて、また一つ胸が高鳴る。
「如月くん…」
「久し振りだね、今日は何が入り用だい?」
澄ました調子は初めて会った時からなんら変わりない。けれど少し違うのは、表情に微かな親しみが感じられる事だろうか。
「いきなり大勢で押し掛けてすまんな。実は俺の足甲が……」
しかしそれよりも何よりも、以前と違うのは龍葉の方だった。如月の姿を見た途端周りの音は消え失せて、息苦しささえ覚える程胸を締め付けられると、胸を抑えてその場に立ち尽くす。
整った目鼻立ちにさらりとした黒髪が掛かり、細身の身体に涼しげな千種色の着物を纏って、ぴんと背筋を伸ばした立ち居振舞いは流麗としていて。とても血気盛んな筈の高校生の男子とは思えないくらい上品なその姿に、龍葉はすっかり魅惚れてしまう。
まさか恋をしただけでこんなに素敵に写ってしまうなんて。
「…たっちゃん?どうかしたの?」
小牧は、折角如月に会いに来たのに突っ立ったまま動かない龍葉を訝しんで声を掛けるが、龍葉はぽや〜っと如月を見つめているだけで反応をしない。
来てからずっとそんな風だから如月もいい加減視線が気になったらしく、小牧に続いて声を掛ける。
「…緋勇さん、何か僕に用でもあるのかい?」
如月の自分に向けられる声に、龍葉はようやく僅かにぴくりと反応すると、ぽつりと呟いた。
「………好き…」
「え?」
「好きです…」
気付くと、それは自然と唇から溢れていた。龍葉は潤んだ瞳を如月に留めたまま、はっきりと想いを告げた。
「如月翡翠くんが好きです―――」
「――――…」
その瞬間、如月は目を見開き、京一達四人は耳を疑って、一瞬で場の空気が凍ったようになる。まさか誰も今日いきなり、しかも友人達がいる前で告白するなど思いもしていなかったから、驚きを通り越して唖然としてしまう。
「…た、たっちゃん…何もいきなり……」
「…い、意外と情熱的なのね……」
「…これはそういう問題なのか…?」
「……如月のヤツ引いてるじゃねーか…」
各々心許なく龍葉の告白を見守るが、いきなり告白された如月本人は、京一の言葉通り困惑したようにたじろいでいる。
「――え…ええと……」
「わたしとぉ、付き合ってください…!」
まるで一世一代の告白のような気合いの入りように、如月はひたすら困惑するしかない。
共闘を申し出てから会うのはまだ二回目。龍葉がその可憐な容姿に反して身も心も強く、中心にいるに相応しい他人を惹き付ける不思議な魅力を持っている事は知っているが、まさかそんな彼女が逆に、冷たいと言われる自分に惹かれる等思いもしていなかったから如月は言葉を探しあぐねる。
それでも探して探してようやく出た言葉は、誰もが想像出来た至極当然な答えだった。
「……ごめんなさい」
「はうっ?!」
龍葉はショックを受けたようだが、他の四人はやっぱり、と溜息と共に視線を逸らす。
「すまないが…いきなりそんな事を言われても困るというか…、月並みだが、僕はまだ余り君の事は知らない訳だから…」
「うぅ…」
「…ま、当然だな」
がっくり頭を下げる龍葉の肩を京一はぽんと叩く。
「告白ってぇのはちゃんと空気を読まねぇとな」
しかしこれで龍葉が諦める訳がなく、ゆっくり顔を上げると、今度は軽くねめつけながら再び如月に対峙する。
「…わ、分かってたもん〜!わたしだっていきなり上手く行きっこないってぇ!」
「そ…そう…」
「ただ如月くんがあんまり格好良くて素敵だったからつい言っちゃっただけだもん〜!」
「………」
龍葉は開き直って聞いているこっちが恥ずかしくなるような台詞を吐くと、反応に窮して狼狽している如月の胸倉をがしっと掴んで距離を詰めた。
「っ…?!緋勇っ…さ…」
「龍葉」
「は?」
「龍葉。せめてそう呼んでぇ」
「え……龍…葉…?」
「そぉ〜!龍葉」
もう何が何だか分からなくなった如月は言われるままに頷き、クエスチョンマークを頭にいっぱい飛ばしながら首を揺すられている。
「わたし絶対諦めないからねぇ!」
「は、はぁ……?」
「…た、たっちゃん!落ち着いて!」
如月の追い詰められ方に、流石に哀れに思えて来た小牧は龍葉を止めに入る。
「ほらっ、如月クン困ってるだろっ!好きな人困らせちゃ駄目だよ」
強く言うと龍葉ははっ、と我に返って、掴んでいた着物の襟口を放すと一歩引き下がり、もごもごと口ごもった。
「あ……ご、ごめんなさ〜い……つい〜…」
ようやく胸元が涼しくなった如月は、平静を取り戻す手段かのように眉間に深く皺を寄せ、咳払いしながら襟元を正すと忌々しく龍葉を見上げた。
「緋勇さ…、……龍葉、君は存外めちゃくちゃな人だな。まさかこんな目に遇わされるなんて思ってもみなかったよ…」
「あ…あのぉっ…本当にごめんなさぃ〜…だからぁ…そのぉ…もう協力しないなんて…言わないでぇ…」
龍葉は半泣きになりながら謝罪するが、しかし声は尻窄みに小さくなっていく。
嫌われたかもしれない、あまつさえ協力関係まで解消されるかもしれないという考えが頭を支配していき、龍葉の表情は暗雲垂れ込める。
しかし如月は憮然として腕を組むと、すっぱりと言い切った。
「誰がそんな事を言ったんだい?」
「え〜…?」
「こんな事で解消するくらいなら始めから手を組んだりなんかしないよ。それに…」
如月ははっきりとした口調からやや黙すると、ふ、と微笑を浮かべる。
「…君と付き合う事は出来ないけれど、こう見えても一緒に戦っていくのは悪くないと思っているんだ。戦いへ向かう時の君の姿勢は一生懸命で好感が持てるからね」
「―――…翡翠…くん…」
振られたのに暖かくなる心と熱くなる頬を龍葉は隠すように俯くと、こっそり口許を緩めた。
「…ありがとう……」
改めて深くなる如月への想い。
もとより諦める気なんて更々なかったが、やっぱり大好きになっていたんだと確信する。
だから今は恋人になれなくてもいい。一緒に戦いたい、そう言ってくれた、それだけで充分だ。本当は戦いなんか嫌いだけれど、如月が側にいてくれれば、もっともっと頑張れる。そんな気がするから。
大好き、その想いだけで。
「…それにしても如月君って、あんな顔もするのね」
「え〜?」
如月骨董品店からの帰り道、ふと呟かれた葵の一言に龍葉は首を傾げる。葵はふふ、と笑って、だって、と言葉を繋ぐ。
「驚いたり困ったり、笑ったり、何だか今日は如月君の色々な一面を見れた気がするわ」
「………」
「うんうん。如月クンって澄ました顔かムッとした顔とかしか見た事なかったから意外だったな。何か少しづつたっちゃんに感化されてったって感じだね」
「わたしにぃ…?」
「うん。流石たっちゃんだよね」
葵と小牧は笑い合いながら歩いて行くが、龍葉は立ち止まると、目を丸くしたまま頬を染めた。
―――当たり前の中にもいつもと何か違う感情を生み出せたら。
そうか、きっとこれでいいんだ。
このまま真っ直ぐにぶつかっていけば、いつかきっと…――――――
終
そうか、ストーカーってこうして(ry
しかし何か段々龍葉が普通の子になってきたぞ…(汗)このままではいけないかも…。
しかしどうやって変人にすれば…orz
ちょっと早くも扱いに悩んできました。
う〜ん…変人キャラってきっとあんまり内面描写しないもんなのよね。だって行動の動機がしれないから変人な訳で。あとやっぱギャグテイストの強い話じゃないと生かし辛い…。感性は一般的そうな如月目線で進める方がやっぱりいいのかもしれない。ちょっと考え直そう…。
あとは今回ちょっと急ぎ気味に書いたので、いつも以上におかしい箇所が見つかるかも…。すみません、早く終わらせてやる事があったので…。
[0回]
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